家族欄の六人目

葬儀会社の夜間受付で、真田藍子が午前四時四十分の引き継ぎ表を印刷したとき、最後の修正依頼が届いた。

「母の会葬礼状に、私の名前がありません」

電話の女性は、遠方から始発で向かう途中だった。礼状の家族欄には五人。発注者である長男は「この内容で確定」と署名している。印刷は五時半に始まり、百五十枚を式場へ届ける。

後輩は「ご発注者以外からの変更は受けられません」と定型文を開いた。

藍子は打ち合わせ記録を読み直した。最初の聞き取りには、六人の名前がある。女性の姓だけ家族と違い、続柄欄が空白だったため、作成ソフトが自動で一覧から外していた。長男が削除を指示した記録はない。

「変更ではなく、入力時の欠落かもしれません。ご発注者へ確認します」

午前五時前、長男へつながった。眠そうな声は、妹の名前を聞くと黙った。

「入れたつもりでした。結婚して名字が違うから、どこに書くか分からなくて」

藍子は家族欄へ名前を戻し、続柄を〈長女〉とした見本を二人へ同時に送った。女性からは、数分後に〈これでお願いします〉とだけ返ってきた。長男の承認も届き、印刷を開始する。プリンターから最初の一枚が出ると、六つの名前は同じ大きさで並んだ。姓の違いだけが、誰かを欄外へ押し出す理由にはならなかった。紙の上でも、家族は六人になった。

後輩が、最初の定型文を閉じた。

「家族の事情に口を出すのが怖くて」

「私たちが家族を決める必要はないよ。でも、機械が勝手に一人減らしたなら、そのまま家族の判断にしちゃいけない」

藍子は、姓が異なる場合も続柄欄を必須にし、欠落時は警告が出るよう改善票を書いた。百五十枚の礼状は、夜が明けるころ式場へ出た。

机には、売上管理職への昇格申請と、遺族支援研修の案内が並んでいた。前者は給与が上がり、後者は資格取得まで時間がかかる。

数字をまとめる席より、名前が一つ消えた理由を聞ける席にいたい。

藍子は昇格申請を閉じ、遺族支援研修の受講届へ署名した。