履歴書を折らない

瑚子は安定した会社にいることを大事にする。妹の茉礼は、やりたいことが変わるたびに職を変える。二人で暮らす部屋には、瑚子の給与明細ファイルと、茉礼の履歴書用写真が同じ棚に入っていた。

茉礼が三度目の転職面接に落ちた夜、封筒は未開封のまま机にあった。瑚子は見なかったふりをしたかったが、封の端が破れているのに気づいた。

「開けないの?」

「どうせ定型文」

「確認はしたほうがいい」

「姉ちゃんは確認で人生が進むと思ってる」

茉礼は笑っていた。悔しいときに笑う癖がある。瑚子は、笑わずに済む場所を増やしてやりたいと思うが、その言い方を知らない。

封筒の中には、不採用通知と、返送された履歴書が入っていた。写真の角が少し曲がっている。茉礼がそれを丸めようとしたので、瑚子は思わず手を押さえた。

「捨てるのはいいけど、折らないで」

「捨てるなら同じじゃん」

「自分が書いたものを雑にしないで」

茉礼は手を引いた。少し怒った顔だった。瑚子も、自分が母と同じ言い方をしたことに気づいて黙った。母はよく「もったいない」と言った。茉礼はその言葉で何度も泣いた。

しばらくして、茉礼がクリアファイルを持ってきた。

「じゃあ、折らないで捨てる方法、ある?」

「資源ごみの日まで、ここに入れる」

「保管じゃん」

「一時保管」

二人は履歴書を一枚ずつ伸ばし、写真をはがさずファイルに入れた。瑚子は個人情報を消す黒いペンを出し、茉礼は宛名部分を切り取った。やり方は違う。けれど、雑にしないという行動だけは同じだった。

翌朝、茉礼は新しい履歴書を書いた。瑚子は会社へ行く前に、証明写真機の小銭をテーブルに置いた。茉礼は礼を言わず、その小銭を財布に入れた。ファイルは棚のいちばん上で、折れずに寝ていた。

駅へ向かう茉礼の背中に、瑚子は「受かったら教えて」とは言わなかった。落ちても帰ってくる場所を、結果で飾りたくなかったからだ。代わりに、テーブルの上の古い履歴書を二人で資源ごみの袋に入れた。角をそろえたのは瑚子で、袋を結んだのは茉礼だった。