帰り道の方角

放課後、私たちは校門を出て、いつも同じ交差点まで歩いた。

右へ曲がれば私の家。左へ曲がれば恋人の家。

四月からは、その方角がもっと大きく分かれる。

私は東京の大学へ進み、恋人は地元の工場へ就職する。

進路が決まってから、会話はぎこちなくなった。

「東京、楽しいだろうね」

恋人はそう言う。

「仕事、忙しいだろうね」

私はそう返す。

本当に聞きたいことだけ、どちらも言わなかった。

卒業まで一か月の夕方、交差点の信号が故障していた。警察官が手で車を止め、歩行者を順番に渡している。

私たちは立ち止まった。

「来年も付き合ってると思う?」

恋人が急に聞いた。

「思わないの?」

「分からない」

胸が冷えた。

「東京へ行く前から別れたいってこと?」

「そうじゃない」

「じゃあ何」

恋人は作業服の採寸票を鞄から出した。四月から着る制服。胸元に会社名が入る。

「お前は新しい人と会って、新しいこと始める。俺は朝から工場で働く。話が合わなくなる気がする」

「私だって不安だよ」

「でも、行くの楽しみでしょ」

責められたように聞こえた。

「就職を選んだのは自分でしょ」

言った瞬間、恋人の顔が固まった。

父親の借金を返すため、進学を諦めたことを知っていたのに。

信号の向こうで、警察官が渡るよう合図した。

私たちは動かなかった。

「ごめん」

私が言う。

恋人はうつむいた。

「俺も、東京へ行くお前を応援したいのに、置いていかれるみたいで嫌なんだ」

初めて、本音が同じ場所へ出た。

私たちは青でも赤でもない交差点の端で、しばらく黙った。

「毎日連絡しよう」とは言わなかった。

「絶対別れない」とも言わなかった。

代わりに、嫌になったことを、嫌になる前に話すと決めた。

「格好悪いことも?」

「特に」

警察官がもう一度、大きく腕を振った。

今度は二人で渡った。

交差点の中央で、右と左に分かれる。

恋人は左へ進みかけ、振り返った。

「四月からも、ここまで送る」

「東京から?」

「帰ってきた日は」

私は笑った。

春から、私たちは何度もすれ違った。

電話の時間が合わず、仕事の疲れを理解できず、大学の話を自慢だと思われた日もあった。

それでも、話せなくなった理由まで相手のせいにしないようにした。

帰省した最初の夜、恋人は本当に駅からあの交差点まで送ってくれた。

信号は直っていた。

青になっても、私たちは少しだけ立ち止まり、同じ方角へ歩く時間を惜しんだ。