怪異相談所から届いた三枚の名刺

退魔師の青年・柊真は、依頼人の家から幽霊を増やしてしまった。

一体だけだった女の影に封印札を貼ると、鏡という鏡から同じ顔が現れた。依頼人は無事だったが、所属していた宗家は「術式を汚した」と柊真の破門を決めた。

荷物を抱えて夜の商店街を歩くと、閉店した喫茶店に三人が待っていた。

怪異捜査官の真白は、拳銃型の霊具をテーブルへ置いた。

「公的調査班へ来て。現場判断はあなたに預ける」

古社の跡取り・環は、カウンターの隣席に置いていた狛犬の像をどけた。

「うちの相談所、助手席が空いてる。祓えないものは一緒に調べよう」

呪物商の女性・紅葉は、店先に黒いタクシーを待たせていた。

「宗家へ戻る気がなくても送る場所は選べる。運転手には朝まで待つよう言ってあるわ」

どの誘いにも、失敗を隠せとは書かれていなかった。

真白は破門状を証拠袋へ入れ、環は冷めた珈琲を温め直し、紅葉は柊真の重い荷を先にタクシーへ運んだ。帰る場所の話をする前から、三人は帰れなくなった彼を扱っていた。

その瞬間、喫茶店の鏡に例の女が映った。続いて窓、スプーン、真白の霊具の銃身にまで顔が増える。

柊真は慌てて札を投げた。札は鏡を割り、影をさらに細かく散らした。

「また増やした……」

三人が椅子を引く音を聞き、柊真は目を閉じた。

「逃げてください。勧誘も忘れて。俺のそばにいると、怪異までついてくる」

足音は確かに遠ざかった。

だが店の外へ逃げたのではない。

真白は霊具を彼へ預けたまま配電盤を落とし、環は空けた隣席に柊真の荷物を置いて逃げ道を確保し、紅葉はタクシーのヘッドライトを鏡へ向けた。無数の影が一方向へ揃う。

「増えたんじゃない」と真白。

「一体が反射面を渡っていただけだ」と環。

紅葉が最後の鏡へ黒布を掛ける。

「あなたの札が細かく追い立てたから、本体の位置が見えたのよ」

女の影は一枚の古鏡へ戻り、静かになった。

三人は朝まで後始末を続けた。霊具は柊真の手にあり、カウンターの隣は空き、タクシーのメーターは止められている。

宗家の門は閉じたままだった。

けれど商店街には、違う看板を掲げる場所が三つ、彼が来る日を待っていた。