拍手を数えない

紗英は会議で話し終えると、内容より先に拍手の数を確かめた。

オンライン会議の画面には、手を叩く絵文字が小さく積み上がる。同僚の発表には十二、自分には七。前回は九だった。紗英は数字をメモし、声の大きさや資料の枚数と並べていた。改善のため、と言いながら、実際には誰より少なかった日を責める材料にしていた。

新しい販売案を説明した午後、反応は三つで止まった。画面の端には、次の発表者へ向けた拍手が次々増えていく。紗英は自分の話を聞いていなかった人の名前まで確認し、胸の内で欠点を数え始めた。

会議が終わっても、録画ページの反応欄を更新する。四つ目が増えない。資料の十七ページに誤字があることにも気づいたが、直すより数字の方が気になった。

更新ボタンへ指を置いたとき、社内便の人が封筒を机に置いた。受領印を求められ、紗英は慌てて判を押す。朱肉が薄く、名前の一部が欠けた。

「もう一度押しますか」と聞かれたが、相手は欠けた印を見て、「読めるので大丈夫です」と封筒を持っていった。

メモ帳には、半年分の数字が残っていた。平均八・四、最多十四、最少二。少なかった日は発表内容よりも鮮明に覚えている。多かった日でさえ、同僚の十五を見れば喜べなかった。拍手は本来、誰かが一度押して終わる小さな反応なのに、紗英はそこから人望や将来まで読み取ろうとしていた。欠けた印を見ていると、全部が揃わなくても用事は進むという当たり前のことが、少しだけ現実に見えた。

紗英は画面へ戻り、反応欄を閉じた。数字を非表示にできる設定を見つけ、その会議だけではなく、今後の録画すべてで隠す。

拍手が増えたかどうかは分からなくなった。落ち着かず、何度か設定を戻しかけた。それでも十七ページを開き、誤字を一文字直した。修正版を共有フォルダへ上げる。

会議の評価が上がったわけではない。三つの拍手も消えない。ただ、紗英は今日の自分を、数字が増えるまで待合室に座らせるのをやめた。

机の端には、薄く欠けた受領印の控えが残っていた。名前はちゃんと読めた。