既読三、返信ゼロ
【バンド〈岸辺〉 最終練習】
18:52 結城倫
部室着いた。鍵開いてる。
18:59 朝倉嵐士
ごめん、駅。
19:03 江守澄香
私も遅れる。
倫は一人でアンプの電源を入れた。大学最後の日、三人で一曲だけ合わせて解散する予定だった。床には嵐士のドラムスティック、壁には澄香のベース用ストラップが、先週から置かれたままだった。
19:21 倫
何分くらい?
既読は三になったが、返信はない。
19:34 嵐士
先に言う。今日、行けない。
港の研修、明朝じゃなく今夜集合だった。
四月から船。半年戻らない。
19:36 澄香
私も行けない。
実家の旅館、母が倒れた。今から帰る。
大学院は辞退した。
二人の未来が、短い吹き出しの中で決まっていく。倫はギターを膝に置き、自分の報告を書く。
19:41 倫
声優学校、受かった。
でも学費払えないから、昼は配送。
送信してから、何を祝えばいいのか分からなくなった。
19:44 嵐士
最後、やろう。
嵐士から三十秒のドラム音源が届く。駅のコインロッカー前で、膝を叩いて録ったらしい。続いて澄香から、車内で弦を指ではじく低い音が届いた。
倫は部室のマイクを立て、二人の音源をスピーカーから流した。遅れるドラム、車輪の音に埋もれるベース。その上にギターを重ね、歌った。
三人は同じ曲を演奏していたが、同じ時間にはいなかった。
20:02 倫
終わった。
20:03 澄香
聞こえた気がする。
20:03 嵐士
俺も。
倫は録音ファイルを送った。再生時間は二分十一秒。既読はすぐ三になった。
20:07 嵐士
じゃ、乗る。
《朝倉嵐士がグループを退出しました》
20:09 澄香
旅館のアカウントと混ざるから、私も抜けるね。
《江守澄香がグループを退出しました》
残った倫は、返信欄に「また」と打ち、消した。部室の時計は、三人が集まるはずだった七時から一時間以上進んでいる。
彼はスティックとストラップを一つの椅子に置き、電源を切った。
チャットの最終メッセージは録音ファイルのまま、既読一になった。