日曜六時の着信

帰りの新幹線が動き出す前に、由羅の電話が鳴った。

母だった。

さっき改札で見送られたばかりなのに、画面には〈実家〉と表示されている。

「もしもし」

「お土産のお菓子、座席の上に置き忘れてない?」

「鞄に入ってる」

「薬は? 明日、朝早いんでしょう。着いたら電話してね。何時になるの?」

「十時くらい」

「十時過ぎたら危ないから、タクシーにしなさい。明日の朝も起きたら連絡して」

ホームでは母がまだこちらを見ていた。電話を耳に当てながら、空いた手で行きなさいと合図している。

由羅は窓越しに小さく首を振った。

「着いたら連絡しない」

母の声が一段高くなった。「どうして。心配するでしょう」

「帰省してる間、ずっと今どこ、次は何時って聞かれてた。家に戻ってまで続くと、息が切れる」

「親なんだから当たり前よ」

「毎日は出ない。電話は日曜の六時にして」

発車ベルが鳴る。母の口が、ガラスの向こうでも同じ言葉を形作った。親なんだから。

「急ぎならメッセージ。返事がないときは、待って。私が出られるときに返す」

「そんな予約みたいな家族、聞いたことない」

「予約があれば、ちゃんと話せる。突然だと、避けたくなる」

母は黙った。列車がゆっくり動き、ホームの柱が二人の間を何度も横切る。

「じゃあ、次の日曜」と母が言った。

「六時に」

「五時半じゃ駄目?」

「六時」

由羅は通話を切った。画面に残った〈実家〉という二文字を開き、連絡先の名前を〈母・日曜十八時〉に変える。

冷たい表示だと思った。けれど、嫌いにならないための時間でもあった。

数分後、機内モードにする前の画面へ母から一通だけ届いた。〈日曜、六時〉。句点も絵文字もない。由羅はすぐに返事を打ちかけ、やめた。約束した時間まで返さなくても、約束は壊れない。そのことを自分にも覚えさせるため、通知を閉じた。

新幹線が速度を上げる。ホームの母はもう見えない。由羅は機内モードを押し、次の日曜のカレンダーに三十分だけ印をつけた。

六日分の静けさを、自分の側に残した。