星を下ろす壊れた梯子
空中都市ルメアでは、人工太陽が落ちてから七日間、朝が来ていなかった。
光炉を再点火するには「天の火」が必要だが、神殿は保管していた火を貴族街の暖房に使い切った。下層区では凍死者が出始め、街灯守のティナは最後の油まで孤児院へ回した。
「街灯一本も守れない者に、太陽など直せるものか」
神官長は門を閉ざす。けれどティナは毎晩、消えた灯柱を一本ずつ磨いていた。火が戻った時、光が曇らないように。
七本目の灯柱から、淡い通知がこぼれた。
《条件達成:光のない夜にも灯りの手入れを続けた者》
《主人公専用排出枠〈点灯〉》
《一度だけ、点けるべき光へ届く道具を排出します》
引くと、片側の脚が折れた三段梯子が落ちてきた。
《壊れた梯子》
《使用者が“届く”と信じる光まで、高さを無視して足場を作る》
神官たちは失笑した。人工太陽は雲より高い光炉にあり、梯子は腰の高さしかない。
ティナは一段目へ足をかけた。
二段目の先に、見えない四段目が生まれる。五段目、六段目。彼女は夜空の中へ昇っていった。地上の嘲笑は小さくなり、代わりに都市中の消えた街灯が足元へ星のように並ぶ。
頂上にあったのは、本物の星ではない。人工太陽から抜け落ちた、拳ほどの光核だった。神殿の塔の屋根に引っかかり、誰も上を見なかったため放置されていたのだ。
ティナは光核を抱え、梯子を降りる。凍える孤児の手ほど温かくない小さな光だったが、炉へ戻すと都市全体が震えた。
東の空が金色に割れる。街灯、暖房炉、農園の育成灯が一斉に点き、凍った水路が音を立てて流れ始めた。貴族街だけに閉じ込められていた熱も均等に配り直される。
神官長が光炉の鍵を掲げた。
「功績により、神殿の点灯師として――」
「私は下層区の街灯守です。まず、七日分の油を返してください」
ティナは梯子を肩に担ぎ、待っている子どもたちのもとへ戻った。
折れていた脚が光で補われ、空いっぱいに鑑定結果が現れる。
《天象級〈星渡りの梯子〉》
《世界初到達地点:失われた朝》
《専用使用者ティナが点灯した灯り――都市一つ》