時給のない日曜日
篠宮衣玖は、日曜の午後五時に目を覚まし、眠った時間をお金に換算した。
九時から五時まで八時間。休日出勤なら手当がつく。副業の作業なら数千円になる。資格の勉強なら、未来の給料が少し上がったかもしれない。ベッドの中で計算するほど、何も生まなかった八時間が高くなった。
机の上には、昨日買った手帳とカフェのレシートがある。手帳の最初のページには〈日曜 午前:勉強/午後:部屋の整理〉と書いていた。予定の横に四角いチェック欄まで描いてある。
スマートフォンを開くと、知人が「朝の三時間で人生が変わる」という動画を共有していた。別の人は副業の売上を報告している。衣玖は画面を伏せたが、数字だけが頭に残った。
冷蔵庫の中の冷えた肉まんを皿へ出す。電子レンジの一分半さえ待てず、そのまま一口かじると、皮が固く歯に貼りついた。自分の休日まで安く扱っている気がして、途中で温め直した。
湯気を待つ間、レシートの裏へペンで書いた。
〈睡眠 八時間 〇円〉
その下に〈損失〉と書きかけ、線を引いて消す。代わりに〈用途:不明〉とした。身体が何に使ったのか、自分には分からない。分からないものへ勝手に値段をつけて、赤字にするのはやめた。
温まった肉まんは、底だけ少し湿っていた。衣玖は手帳のチェック欄を塗らず、予定の上へ細い線を一本引いた。完了でも失敗でもなく、今日は閉店という線だった。
働かなかった時間、学ばなかった時間、誰にも見せられない時間。時給のない日曜日を、無価値と同じ意味にしなくていい。
手帳の余白には、先月の自分が〈休みをちゃんと取る〉と書いていた。ちゃんと、という言葉が、今は仕事より難しかった。眠るだけでは休み方として雑で、散歩や読書なら丁寧なのか。衣玖はその一文にも線を引かず、下へ小さく〈採点しない〉と追記した。
肉まんの袋には、購入時刻が昨夜の二十三時四十八分と印字されていた。衣玖は遅い一週間の終わりまで、今日の損失へ含めないことにした。
衣玖はレシートを手帳へ挟んだ。八時間ぶんの空白を回収せず、肉まんの湯気だけを受け取った。