最初のエラーを見せる

美緒はシステム障害が起きると、誰にも言わずに直そうとした。運用チームで一番若い自分がエラーを出したと思われたくない。ログを削り、設定を戻し、解決してから「問題ありませんでした」と報告する。そのため小さな不具合ほど、一人で抱えて長引いた。

 同じチームの寺尾深雪は、質問しても画面を指すだけの無口なエンジニアだった。社内チャットの文章も句点まで短い。だが障害対応では、最初に見つけた画面を必ず保存していた。

 深夜リリースの翌朝、美緒のテスト環境で赤いエラーが出た。誰も出社していないうちに消そうとログを開くと、背後に深雪が立っていた。彼女は付箋へ書く。

『最初のエラーを消す前に、誰か一人に見せる』

「原因が私だったら恥ずかしいです」

 深雪はエラー画面を指し、次に美緒自身を指す。そして首を傾げた。画面と自分は同じものなのか、と聞かれた気がした。

「見せて、何て言えばいいんですか」

 深雪は肩をすくめた。正しい報告文まではくれない。

 半年前、小さな設定ミスを報告したとき、会議で名前を挙げられたことがある。誰も責めなかったのに、その日の視線だけが残った。それから美緒は、問題を解決した姿だけ見せようとした。困っている途中を隠すほど、有能に見えると思った。実際には、誰も知らない画面の前で時間だけが減っていった。

 美緒はスクリーンショットを撮ったが、共有チャンネルへ貼れなかった。まず直してから。もう少し調べてから。そうするうち、本番環境の監視にも同じ警告が出た。

 心臓が速くなる。隠した時間まで責任に加わっていく。

 深雪は自席でコーヒーを飲み、急かさない。助け舟も出さない。課題は、美緒が自分で実行しなければただの付箋だった。

 共有チャンネルを開く。二十七人が見る場所だ。美緒は説明を整えようとして、全部消した。

『最初に出たエラーです。原因はまだわかりません。五分だけ一緒に見てください』

 スクリーンショットを添える。送信した瞬間、複数の入力中表示が点いた。

 美緒は赤い画面を閉じず、そのまま「画面を共有する」を押した。