最後の一拍で眠れ
地下礼拝堂の天井から、石片が雨のように落ちていた。
子どもたちは長椅子の下で泣き、外では投石器の轟音が続く。城壁があと一度揺れれば、この部屋は埋まる。
壁守ネリオは床へ耳をつけ、石へ子守歌を囁いた。
この歌は、歌い手の心臓から未来の一拍を抜き取り、城塞の石へ与える。石はその一拍のあいだ生き物のように身を固め、崩れない。抜かれた拍は二度と身体へ戻らない。
一節歌う。
どくん、と壁が鳴った。落ちかけた梁が止まり、子どもたちが出口へ走る。ネリオの胸では、次の鼓動までの間が少し長くなった。
二節目。三節目。
投石が続くたび歌い、壁へ拍を渡す。心臓は十拍に一度休み、やがて五拍に一度しか動かなくなる。視界が暗くなり、指先が冷えた。
「先生、行こう」
最後まで残ったアマネクが袖を引いた。出口の階段はすぐそこだ。
そのとき真上で、これまでより大きな衝撃がした。天井全体に亀裂が走る。階段の向こうには、まだ十人の子が並んでいた。
一拍では足りない。全員が抜けるまで、少なくとも三十拍。
ネリオは残っている鼓動を数えた。胸の奥に、ちょうど三十一。
「歌を覚えているか」
アマネクが頷く。
「私が止まったら、続きを歌わないで。これは石の歌だ」
ネリオは最後の節を長く伸ばした。
一拍、二拍、三拍。心臓から音が抜けるたび、壁の中を巨大な脈が走る。子どもたちは階段を上がった。二十五拍。二十八拍。
アマネクが出口へ届く。
三十拍目で天井が静止した。
胸には一拍だけ残っている。自分が階段を上がるための一拍。
だが足元で、長椅子に挟まれた小さな手が動いた。泣き疲れて眠っていた幼子が一人、まだいる。
ネリオは抱き上げ、最後の一拍を歌へ渡した。
壁がどくんと鳴る。
自分の胸は鳴らなかった。
幼子を階段へ押し上げたところで、身体が膝から崩れた。冷たいはずなのに、不思議と眠気だけが深い。
夜明け後、子どもたちは無傷で掘り出された。ネリオの身体も、歌う姿勢のまま石片の間に残っていた。
心臓は空だった。
それから城塞の壁は、一日に一度だけ脈を打った。
アマネクはその時刻になると石へ耳を当てた。壁の中へ移った先生の鼓動が、今も子どもたちを眠らせないよう、ゆっくり城全体を巡っていた。