月曜だけの隣人

死んだ隣人とは、月曜日の夜だけ壁越しに話せた。

三階の管理室は廊下のいちばん奥にあり、壁一枚隔てた隣に三〇七の札がある。住み込みを始めた初日、前任者は「あちらには近づかないで」と言った。空室だからだと思っていた。

月曜の閉館時刻を過ぎると、壁を三回叩く音がする。

「新しい人?」

初老の女の声だった。

「先週から、ここを任されています」

「そう。前の人は、花を替えてくれなかったから」

妙な言い方だが、寂しいのだろう。私は壁際に椅子を置き、毎週話した。廊下の昇降機が動くたび、女は「お経の鐘が近い」と言った。私はテレビの音と取り違えているのだと思い、訂正しなかった。女は外へ出られず、窓も開けられないという。料理の匂いがしない代わりに、壁の隙間から線香の香りが流れてきた。

「ご家族は?」

「月に一度、上から顔を見せるわ」

「上の階に?」

「ええ。蓋が開くと空が見えるの」

私は冗談だと思った。

女は昔、彫金をしていた。夫を早くに亡くし、娘とは疎遠になった。死んだのは二年前。自分の葬式に娘が来たかどうかだけが心残りだという。

「来ましたよ」

私は管理記録で確かめてから答えた。

「赤い傘を持った方でしょう。長い間、ここにいました」

壁の向こうで、女は泣いた。翌週から声は少し明るくなった。私は新聞の記事や天気を伝え、女は昔の町の話をした。

ただ、三〇七の扉を探しても見つからない。廊下には小さな真鍮の扉が並ぶだけで、どれも人が通れる大きさではなかった。前任者に尋ねると、「月曜は誰も来ないはずだ」と青ざめた。

ある夜、女が言った。

「そろそろ娘が来る。今日は花の匂いがするもの」

直後、壁の一部が外側へ開いた。朝の光が差し、赤い傘を持った老女が、白い花束を抱えて立っている。

私は廊下の表示を読み直した。《第三納骨室》。壁の小扉には三〇六、三〇七と番号が続き、開いた三〇七の奥には骨壺があった。

表示には《第三納骨室》とある。三階の部屋は納骨壇、廊下は納骨堂の通路だった。

赤い傘の老女が三〇七へ花を供えた。壁の向こうで女が、「来てくれた」と泣いた。

月曜だけの隣人は、部屋を借りていたのではなく、そこへ納められていた。