月曜朝のラメ
有働里佳が出社すると、紺のジャケットから銀色の星が落ちた。
一つ、二つ、エレベーターホールの黒い床へ。動くたびに肩や袖から増え、知らないうちに小さな星座を作った。日曜に着た宇宙歌姫の衣装から移ったラメだった。洗濯も粘着テープもしたのに、細かな光は縫い目へ潜んでいたらしい。
「昨日、派手な店でも行った?」
同僚が笑い、里佳は足で星を隠した。
「姪と工作をして」
口から出た嘘は、軽すぎて自分の胸に刺さった。姪などいない。週末の自分を守るため、存在しない子どもを盾にした。
午前中、里佳が歩いた通路には、薄い光の跡が続いた。
給湯室、コピー機、会議室。清掃担当の女性がモップで追いかけているのを見て、罪悪感が増した。趣味が知られるより、誰かに始末させているほうが恥ずかしかった。
昼休み、里佳は掃除用具を借りに行った。
「すみません。私の服から落ちています」
清掃担当の甲斐は、ちり取りの中の星を見せた。
「これ、昨日このビルでやってたイベントのラメでしょう」
上階のホールが、コスプレ交流会に使われていたことを里佳は知らなかった。
「参加していました」
里佳は観念して言った。
「宇宙歌姫の衣装で。会社の人には内緒で」
甲斐は特に驚かず、粘着ローラーを渡した。
「内緒は自由。でも床の星は共有部分ね」
里佳はジャケットを脱ぎ、裏返してローラーをかけた。二人で通路を戻り、机の下まで光を拾った。
甲斐は、星がよく見えるよう照明の角度を教えただけで、衣装の写真を求めなかった。里佳はその距離がありがたかった。
午後、同僚がまた一粒を見つけた。
「まだ姪っ子の工作ついてるよ」
里佳は指先で拾い、今度は笑ってごまかさなかった。
「姪じゃなくて、私の衣装。昨日、歌姫になってたの」
相手は目を丸くし、「へえ」とだけ言って電話へ戻った。
世界はそれほど揺れなかった。
退社前、里佳は拾い残した星を一つ、社員証ケースの内側へ貼った。床はきれいになったが、自分まで無色に戻す必要はなかった。