木屑の中の百日林檎
王宮果樹園では、秋の林檎の半分が冬至前に腐った。
侍従長プラハは、傷んだ実を前に庭師を怒鳴る。
「女神祭の卓に赤い林檎が一つもなければ、全員交代だ」
林檎は王家の豊穣を示す品で、祭壇に百個並べる決まりだった。今年は豊作なのに、蔵では一つの腐りが隣へ移り、毎朝籠単位で捨てられている。
庭師たちは氷魔法を求めたが、凍れば果肉が崩れる。責任だけが末端へ落ちてきた。
転生者の綾瀬未羽は、収穫籠をひっくり返さなかった。
実を一つずつ手に取り、爪傷や打ち身のないものだけを選ぶ。傷物は今日の厨房へ回し、保存用と混ぜない。
乾いた木屑を箱に敷き、林檎同士が触れないよう、へたを上にして一段ずつ埋めた。箱の側面には小さな空気穴を残す。
「箱に隠して腐らせる気か」
侍従長は笑った。
未羽は箱を北向きの石蔵へ運び、蓋を閉じた。
百日の間、未羽は十日に一度だけ箱を開け、柔らかくなった実を二つ取り除いた。木屑ごと交換したため、汁は隣へ届かない。
そして女神祭の朝。
山積みにして保管した林檎は、触れるだけで皮が破れ、甘酸っぱい腐敗臭を出した。飾り用に磨いた上段まで茶色い斑点が広がっている。
プラハが青ざめる中、未羽は自分の箱を開けた。
木屑の間から、赤い実が一つずつ現れた。
皮には張りがあり、へたも乾いている。刃を入れると、白い果肉がぱきりと割れ、蜜の香りが石蔵に広がった。
女王がその場で一切れ食べる。
「秋に摘んだ時と同じ音がする」
箱一つ三十個。百日で外したものは二個だけ。
従来は百個中五十六個を捨てていた。未羽の方法なら、同じ蔵で四倍の箱を重ねられ、一個が傷んでも腐敗は隣へ移らない。
女王付きの料理人が十個を無作為に割った。十個すべて、白い果肉から澄んだ果汁が滲んだ。
プラハは「偶然よい実を選んだだけ」と言い訳したが、未羽の記録札には収穫日、箱番号、取り除いた二個まで残っている。
女王は二切れ目を食べながら命じた。
「来年の収穫は一万二千。すべてこの箱へ」
「庭師長は……」
「彼女だ」
未羽の手へ果樹園の銀鍵が置かれた。
祭壇へ運ばれた最初の林檎には、値札ではなく王家専用の赤紐が結ばれていた。