根を見せない引っ越し
薬師学院の月白草は、畑へ移すたび十株に八株が枯れた。
種一粒が銀貨一枚。苗床で育てても、植え替えの翌朝には葉が伏し、学院は三年連続で王軍への納品を破っていた。学院長は運搬係の乱暴さを責め、今年は新人の土師映理へ全責任を負わせた。
映理は苗を一本ずつ抜かなかった。
湿らせた土を木枠へ詰め、指二本幅の立方体に押し固める。その一つ一つへ種を蒔き、根が回るまで枠の中で育てた。移植の日は土の立方体ごと持ち上げ、そのまま畑の穴へ置く。
「根を洗わず植えるなど、土を持ち込むだけだ」
主任薬師オレグナは、従来苗三十本を裸根にして隣へ植えた。映理も三十本。水の量、日当たり、時刻はそろえた。
植え替え直後、裸根の苗は葉を垂らした。映理の苗は、立方体の土が根を抱いたままなので、茎の角度が変わらない。
二日後に生存数を数える。
従来区画で立っていたのは七本。映理の区画は二十九本。枯れた一本も、虫に茎を切られただけだった。
主任は「まだ根付いていない」と言い、苗を一本抜いた。土の立方体から白い新根が四方へ伸び、周りの畑土へ食い込んでいた。裸根苗では、移植時に切れた太い根が黒く縮んでいる。
王軍の購買官は、作業時間も測らせた。従来法は三十本を抜き、根をほどき、植えるまで五十二分。土塊ごとなら十九分。苗床から畑へ運ぶ途中の落苗もゼロだった。
水やり札も違った。裸根苗は萎れるたび朝昼晩の三回、土塊苗は朝の一回だけで葉が立つ。二人が桶を運ぶ時間は、一日一刻から二十分へ減っていた。
「木枠代が高い」
オレグナは最後に食い下がった。映理は底の外れる枠を洗い、もう一度組み立てた。百回は使える。銀貨三十枚分の苗を救う道具の材料費は銅貨八枚だった。
購買官は三十株の前へ王軍の青札を立てた。
「今年の納品は打ち切らない。月白草三千株を、この土塊苗で追加注文する」
学院長は主任の責任状を破り、その裏へ映理の育苗主任任命を書いた。