森竜の落とし物係
「魔物の落とし物を持ち主の足元へ返すだけ? 拾得物係なら箒でも務まる」
森林庁の試験官は、ルキエを無能として森番小屋へ追いやった。
【技能:《持ち主へ》――魔物が所有し、失った無生物一つを、触れた場所から持ち主の足元へ戻す】
持ち主を呼び寄せることも、盗品を人間へ返すこともできない。一日一回。ルキエは森で、角鹿、苔猪、木登り蜥蜴の落とした鈴や巣材を拾って暮らした。
ある年、森の葉が銀色に枯れ始めた。
根は生きているのに、朝ごと一帯が音を失う。森侯メルガドは魔物の呪いと断じ、伐採隊を入れた。だが切った木の年輪には、同じ王冠の模様が浮かんだ。
ルキエは小屋へ来る魔物たちを見た。どの獣も北を向き、何かを探している。角鹿の首鈴を返したときでさえ、彼らは礼を言うように鼻を鳴らしてから北へ歩いた。
北には王都の宝物庫がある。
ルキエは侯爵へ頼み、封印庫へ入った。奥の箱には、百年前の征服戦で持ち帰った「枝角の王冠」があった。宝石に見えた緑の粒は、乾いた種だった。森竜が千年かけて育てた冠を、人間が戦利品として盗んだのである。
「これを返せば、森竜まで王都へ来るぞ」
試験官が止める。
「返るのは品だけです。森竜は、ずっと森で待っています」
ルキエは王冠へ触れた。
《持ち主へ》。
箱の中が空になる。
同時に、遠くの森から地鳴りがした。伐採隊が剣を抜く。しかし現れたのは竜ではなく、緑の光だった。地平から地平へ根が輝き、銀色だった葉へ色が戻る。枝には一夜で花が咲き、魔物たちがいっせいに北へ頭を下げた。
森の最奥で、王冠を戴いた老竜がゆっくり翼を広げた。攻めては来ない。ただ失くしたものが戻った森で、長い息を吐いた。
メルガドは伐採命令書を火へ入れた。
試験官が「王家の宝を勝手に」と責める。
森侯は宝物庫の鍵束をルキエへ渡した。
「盗んだ物を宝と呼ぶから、森は我らを泥棒と呼んだのだ」
侯爵は色を取り戻した木々を見上げる。
「今後、王国が所有を主張する前に、持ち主を知る者へ尋ねよ」