模倣科の原典

ティセラ・アンジュの魔法は、いつも誰かに似ていた。

炎を出せば教師の炎、氷を出せば同級生の氷。能力測定は容赦なく【固有性:4】と記した。

原典科首席のファビオ・ルーンは、彼女の答案を掲げた。

「借り物を並べるだけなら、鏡でも入学できる」

公開測定の課題は、地下から出土した古代術式だった。壁画は欠け、読める者はいない。ファビオは自信満々に杖を振ったが、途中で光が崩れた。教師たちも首を振る。

ティセラは壁画を見つめた。欠けた線そのものではなく、周囲に残る筆圧、石粉の飛び方、描き手が手首を返した癖を見る。

「何を盗むつもりだ」とファビオが言う。

「残っているものを、返すだけです」

ティセラは杖を動かした。教師の炎、同級生の氷、食堂の炉で見た火加減、修復師が石を撫でる指。彼女が見てきた無数の技が、欠けた壁画の動きを補う。

空中に現れたのは、誰の魔法にも似ていない透明な鳥だった。鳥は壁画へ降り、失われた線を光でなぞる。地下室全体が震え、閉ざされていた原典庫の扉が開いた。

ファビオは唇を噛んだ。

「それも誰かの真似だ」

原典庫の扉から、古い声が響いた。魔法を封じた術者の記録だった。

――形だけを守る者ではなく、欠けたものを理解して補う者へ開く。

教師たちは沈黙した。原典とは、最初の形を崇めて写すことではない。失われた部分を、残された技と現在の知恵で生かし直すことだった。

ティセラが他人の術を覚えたのも、奪うためではなかった。炎の熱で凍傷を防ぎ、氷の膜で火傷を冷やし、異なる技をつないで誰にもできない答えを作ってきた。だが評価欄は出発点が他人にあるというだけで、すべてを模倣へ押し込めていた。

ファビオは自分の杖を壁画へ向け、同じ鳥を出そうとした。線は似ていたが、羽ばたく前に崩れる。彼は完成形しか見ておらず、そこへ至る無数の選択を理解していなかった。

ティセラの透明な鳥だけが、原典庫の奥で静かに羽を休めた。

新式水晶は、完成した術と壁画に残る術を照合した。揺らぎも呼吸も、描き手の迷いまで重なっていく。

【原典再現率:100%】

教師長はティセラの「模倣生」という札を剥がし、原典庫の鍵を渡した。ファビオの首席札には、審査中の灰色が灯る。

【原典科・席次更新】

首席:ティセラ・アンジュ

模倣判定待機:ファビオ・ルーン