歌の低い畑

農薬散布ドローンは、畑の上を三メートルの高度で飛ぶよう設定されていた。

作物の種類にも、持ち主の年齢にも興味はない。

風速と葉の密度だけを見て進む。

一人で畑を守る老女は、作業中ずっと歌っていた。

昔、夫と田植えをした頃の歌。

歌詞はところどころ抜け、同じ節を何度も繰り返した。

ドローンが初めて来た日、老女は飛行を見上げ、

「暑いのに、よく働くね」

と言った。

散布が終わると、機体の脚へ麦わら帽子の影をかけ、冷たい井戸水を入れた桶のそばへ置いた。

機械は暑さを感じないし、水も飲まない。

それでも翌日から、老女が歌う畑だけ、高度を一メートルまで下げるようになった。

監視画面には毎回、低空飛行警告が出た。

町で働く孫は設定を直した。

翌日にはまた低くなる。

「葉を傷めるから歌わないで」

孫が言うと、老女はしばらく黙って作業した。

ドローンは三メートルのままだった。

その日の畑は、風の音しかせず、孫には妙に広く感じられた。

秋、老女が入院した。

孫は仕事を休み、収穫のため畑へ通った。

機械の操作はできても、どの実を残し、どの枝を切るか分からない。

老女から電話で教わりながら、毎日失敗した。

ある夕方、孫は無意識にあの歌を口ずさんだ。

歌詞をほとんど覚えていないので、同じ二小節だけだった。

上空のドローンがゆっくり降りてきた。

一メートル。

老女の頭上を飛んでいたのと同じ高さ。

羽音が歌へ合わせるように強くなったり弱くなったりした。

孫は画面を見ず、最後まで歌った。

ドローンのカメラには、老女がいつも手を入れていた土の割れ目や、紐を結び直した支柱が細かく映っていた。

高い場所からは見えなかった手仕事だった。

退院した老女は、畑の端で椅子に座るようになった。

孫が作業し、老女が歌う。

ドローンは二人の間を低く飛んだ。

数年後、老女の声がなくなっても、孫は畑で歌い続けた。

上手ではない。

歌詞も最後まで分からない。

それでもドローンは歌が始まるたび高度を下げ、作物の葉を揺らさないぎりぎりのところを進んだ。

町の人は、古い機体の高度センサーが壊れていると言う。

孫は直さない。

畑には、遠くから管理するだけでは見えないものがある。

機械も一度、人の歌を聞く高さを覚えると、空へ戻りすぎなくなるらしい。