止めたタイマー
深町澪奈は、集中が途切れるたびに、二十五分のタイマーを最初からやり直した。
資格講座の動画を見る。通知に目が移ったらやり直し。洗濯機の音が気になったらやり直し。三分ぼんやりしたと気づいたら、そこまでの時間は数えない。正しく集中できた二十五分だけが、勉強した時間だと思っていた。
水曜の夜、開始から十七分で、澪奈は同じ行を四度読んでいた。
仕事では昼休みも取れず、帰宅してから夕食を流し込んだ。頭の中は白く、講師の声が耳を通り抜ける。それでも来月の試験に間に合わせるには、あと二単元進めなければならない。
タイマーには残り八分十三秒。
澪奈は一度停止し、ゼロへ戻した。最初からなら、今度こそ集中できる。机の上の水を飲み、姿勢を正し、再開する。
六分後、今度はあくびが出た。
また失敗した、と澪奈は思った。停止。リセット。画面の数字は二十五分へ戻る。やり直すたびに夜だけが減り、勉強時間の記録は増えない。
三回目のタイマーを押す前に、澪奈は自分の手を見た。爪の脇に、無意識に剥いた赤い跡がある。
彼女は二十五分を開始しなかった。
代わりに、今までの十七分を学習記録へ入力した。アプリは「目標まであと43分」と表示したが、澪奈は通知を閉じた。動画のしおりには、途中のページ番号だけ残す。
浴室へ湯を張るボタンを押す。まだ二十二時前だった。いつもなら、予定を達成するまで風呂も睡眠も後回しにしていた。
湯がたまるまでのあいだ、澪奈は参考書を鞄へしまった。明日続きをする保証はない。それでも、今日の十七分をなかったことにはしなかった。
風呂から上がると、タイマーは二十五分のまま止まっている。澪奈はそれをセットし直さず、スマートフォンを充電器へ置いた。
未達成の表示は消えなかった。布団に入ると、頭の中にまだ講師の声が残っていたが、続きを再生はしなかった。
十七分だけ進んだ一日は、途中のまま終わった。澪奈は眠気を失敗として数えないまま、目を閉じた。