死神税の徴収日

死者管理局の窓口は、月末になると混雑する。

徴収官ユトラの机に、財務官ベスカが黒い杯を置いた。

「未納分の死神税だ。飲んで清算しろ」

ユトラの罪は、貧民街の寿命帳簿を改竄したこと――とされている。実際に帳簿を改竄し、集めた寿命を貴族へ売っていたのはベスカだった。告発書を提出した翌朝、ユトラは被告席へ座らされていた。

杯の中身は〈即時死亡通知〉。毒というより命令書だ。飲んだ者の魂へ「本日死亡」と記入し、死神が強制回収する。

「領収書は出ますか」

「棺に入れてやる」

ユトラは飲み干し、いつもの癖で杯を逆さにして一滴も残さなかった。

壁の大時計が一度鳴る。黒い霧から死神の鎌が現れ、彼女の胸を通り抜けた。傍聴人が息を呑む。

だがユトラは椅子に座ったまま、告発書へ印を押していた。

ベスカは死神へ怒鳴る。

「回収しろ! 命令は正式だ!」

死神は帳簿をめくり、困ったように首を傾げる。杯は本物。死亡通知も受理済み。それなのに、回収対象欄が空白へ戻ってしまう。窓口の列から、未納者ではなく職員たちのざわめきが起こった。死神が回収を断念するところなど、局の創設以来、誰も見たことがない。

「ならば特別徴収だ」

ベスカは局長印を奪い、第二命令〈全寿命差押え〉を発動した。天井から巨大な黒鎌が落ち、窓口ごとユトラを断つ。紙と石材が吹き飛び、黒煙が受付を覆った。

煙が晴れる。

落ちた黒鎌は床を地下三階まで割っていた。その縁で、ユトラは同じ姿勢で座り、告発書の二枚目へ割印を押していた。机だけが彼女の形に残り、周囲の床は深く裂けている。

散らばった告発書を若い書記たちが拾い始める。ベスカが消そうとした署名は、もう十人の手に渡っていた。

「私の職能は〈免税〉です」

「たかが税を逃れる技能だろう!」

「いいえ。私に課された、同意のない負担を無効にする権限です。税も、毒も、死も」

局の鑑定盤が彼女を再計算する。防御値の欄へ数字を入れようとするたび、《課税根拠なし》の朱印が押されて消えた。

三度目の計算後、盤面に最終処理が表示された。

《防御値 測定不能》