残り三十本で注文せよ
砂蛇の解毒薬は、必要な日に限って棚から消えた。
辺境施療所では一日平均五本を使う。薬都へ注文を出してから届くまで六日。それなのに管理官は最後の一本を使ってから発注し、その六日間、患者を祈祷室へ送っていた。国府実篤が倉庫係へ入った朝、在庫は三十一本だった。
「まだ一月分ある」と管理官は言った。
実篤は棚の三十本目へ赤い紐を結び、一本だけ使われた夕方、注文鐘を鳴らした。
「残っているのに買うのか!」
管理官の怒声の中、早馬が薬都へ走った。
翌日からも患者は五人ずつ来た。棚は二十五、二十、十五と減る。管理官は毎朝「余計な注文だった」と笑ったが、五日目に砂嵐が起き、隊商路が半日遅れた。
六日目の昼、棚には五本だけ。そこへ騎士六人が砂蛇に噛まれて運び込まれた。
五本を使い、最後の一人を前に棚が空になる。管理官の顔から血の気が引いた、そのとき、外で到着鐘が鳴った。
薬都の箱が荷車から下りる。新しい解毒薬百本。赤い紐を越えた日に出した注文が、最後の一本を使い切った時刻へ間に合ったのだ。六人目も薬を飲み、痙攣が止まった。
前年の同じ月、解毒薬が切れて祈祷室へ送られた患者は十四人、そのうち三人が帰らなかった。管理官は需要が読めないせいだと言っていた。だが実篤が使ったのは予言ではない。一日に五本、届くまで六日。棚の三十本が、注文を鳴らす線になっただけだ。
次の一週間、患者数は四人、七人、三人と揺れた。それでも赤紐を越えた時点で次便が動くため、棚は一度も空にならない。余りも百本単位で積み上がらず、期限切れの廃棄は前月二十八本から零へ減った。
薬都の商人まで、突発の早馬に起こされるより定量の注文札を受けるほうが安いと、価格を一割下げた。患者、施療所、供給元の三者が同じ赤紐で得をしていた。
在庫切れ時間、零。治療を断った患者、零。
管理官は「偶然だ」と呟いたが、施療所長は赤い紐を隣の棚にも結んだ。止血薬は残り四十本、輸送日数八日、一日五本だった。
「全部の薬に、切らす前の線を決めろ」
所長は倉庫の鍵を実篤へ渡した。
「今日から調達主任だ。注文鐘を鳴らす時刻は、君が決める」