氷獅子の爪で朝を切り出す
王都から朝が消えて七日目、時計守ロクサは氷獅子を倒した。
空は夜明け直前の藍色で止まり、中央時計塔の振り子も凍っている。神官は祈祷料を集め、宮廷魔術師は「百年は解けない」と宣言した。市場の野菜は芽を閉じ、夜勤の鐘しか鳴らないため、人々は何日目かさえ分からない。寒さより恐ろしいのは、畑も人心も次第に眠ったままになることだった。
必要なのは、時を凍らせる氷獅子だけが落とす《朝断ちの爪》。
ロクサの《現象限定ドロップ》は、倒したボスが引き起こした異常を断ち切る品を必ず残す。ただし使えるのは一度きりだ。
氷獅子が砕けたあと、雪の上に残った爪は、裁縫針ほど細かった。
ロクサは爪を布で包み、胸元へしまった。力任せに使えば、凍った時間ごと王都を割る恐れがある。時計守に必要なのは、大きな力より一秒のずれを見つける目だった。
「それで時計塔の氷が割れるものか」
宮廷魔術師は笑い、塔の鍵を渡さない。ロクサは七年間、毎朝歯車へ油を差してきた下働きだ。彼女は鍵束を見ず、壁面の保守用梯子を登った。
塔頂では、巨大な振り子が青い氷に閉じ込められている。
ロクサは氷を砕かなかった。
爪を当てたのは、振り子と影のあいだに走る、髪の毛ほどの黒い境目。氷獅子が「夜と朝を縫い合わせた継ぎ目」だ。
一度、横へ引く。
空に切れ目が入った。
そこから金色の朝日があふれ、王都を端から塗り替える。振り子が動き、鐘が七日分ではなく、今この瞬間の一回だけを鳴らした。屋根の霜が落ち、閉じていた花が開き、眠り込んでいたパン生地まで一斉に膨らむ。
神官の祈祷台には、集めた金貨と「効果なし」の札だけが残った。宮廷魔術師の氷結陣も朝日に溶け、彼が何もしていなかったことが広場中へ見えた。
王が塔を見上げる。
「朝を戻した者は誰だ」
ロクサは油で黒くなった手を上げた。
「時計を直しただけです。止められていた、世界で一番大きな時計を」
金の光に溶けた爪が、最後に鑑定文を残す。
【氷獅子限定SSR《朝断ちの爪》――凍結時間七日を完全切断、世界初】