流しそうめんは曲がり角で

 枇杷島啓士は、町内会の流しそうめん台を任された。

 竹を縦に割り、節を抜き、庭から公民館の水場までつなぐ。工作好きの啓士は、紙へ精密な図を描き、まっすぐ長い流れを作るつもりだった。

 ところが公民館の庭には大きな梅の木があり、竹を直線に置けない。

「木を避けて曲げれば?」

 子どもたちが言う。

「水は曲がり角で止まる」

「じゃあ、止まったのを食べる」

 理屈より食欲が強かった。

 啓士は短い竹を三本つなぎ、梅の木を回り込むようにした。

 試しに水を流すと、継ぎ目から勢いよく漏れた。

 子どもたちは歓声を上げ、足を濡らした。

「失敗だから喜ばない」

「夏っぽい」

 町内会の人が古い手拭いを持ってきて、継ぎ目へ巻いた。見た目は不格好だが、水は少しずつ先へ進んだ。

 本番、最初のそうめんは曲がり角で詰まった。

 後ろから来た麺が重なり、小さな白い渦になる。

「そこ、食べ放題!」

 子どもたちが箸を伸ばし、あっという間になくなった。

 啓士が流す量を減らすと、今度は一筋ずつきれいに曲がった。

 大人は生姜や茗荷をつゆへ入れ、年配の人は梅の木の下でゆっくり食べた。

 流す人、取る人、こぼれた水を拭く人。予定していなかった役目が自然に分かれ、誰も手持ち無沙汰にならなかった。

 最後に、啓士も上流へ座った。

「設計者は流す側でしょう」

「設計変更後の確認」

 子どもが一束を流す。

 麺はまっすぐ進み、曲がり角で少し速度を落とし、啓士の箸の前へ来た。

 つかむと、冷たい水が指へ跳ねた。

 つゆには刻んだ紫蘇の青い香りがあり、梅の葉から木漏れ日が落ちている。

 片づけのとき、子どもたちは「来年はもう一回曲げよう」と言った。

「曲がり角は一つで十分」

「二つなら、もっとたまる」

「たまらないように作る行事なんだよ」

 啓士は答えながら笑った。

 濡れた竹からは、青く甘い匂いがした。

 まっすぐではなかった流し台は、梅の木の周りに人を集め、誰かの箸の前でちょうどよく速度を緩めた。

 夏は、少し詰まるくらいが賑やかでよかった。