消えた連絡網
【二〇〇九年度卒・連絡網】
参加者は、同窓会前には八十六人いた。終了から三日で三十二人が通知を切り、十一人が退出し、残った発言者は三人になった。
21:12 蔵本栞
会計報告を固定しました。残金二千四百円。次回へ繰り越しでいい?
21:14 久保田怜司
次回あるの。
21:16 鶴見美緒
十年後とか。
高校で連絡網係だった三人は、卒業後も住所不明者を探し、結婚した者の名字を直し、訃報のたびに名簿へ細い線を引いてきた。同窓会では「よく全員集めたね」と褒められた。三人自身が何をしているかを尋ねた人は少なかった。
21:22 栞
私は来月、離島へ移る。診療所の事務。電波が弱いから、このアプリやめる。
21:24 怜司
急だな。
21:25 栞
急に決めないと、ずっと名簿の中にいる気がした。
怜司は四月から刑事弁護専門の事務所へ移る。依頼人の情報を守るため、個人SNSをすべて閉じるつもりだという。
21:31 美緒
二人とも消えるんだ。
21:33 怜司
美緒は?
21:36 美緒
町の図書館を辞めて、父の写真館を継ぐ。卒業アルバムも撮る。私は人を名簿に載せる側へ戻る。
栞が笑う絵文字を送った。高校時代、美緒だけが「この町に残る」と言い、二人に臆病者とからかわれた。栞は海を越え、怜司は都会へ出て、美緒は同じ商店街に立つ。ただし三人とも、当時想像した場所とは違っていた。
22:01 怜司
繰越金、学校へ寄付でいいんじゃない。
22:02 栞
賛成。
22:05 美緒
じゃあ、このグループも閉じようか。
既読が二つ付いたあと、誰もすぐには返さなかった。連絡網をなくせば、会えないのではなく、会わないことがはっきりする。
22:19 栞
閉じよう。
22:20 怜司
賛成。
美緒は管理画面を開き、全員へ終了通知を送った。退出者の名前が滝のように流れ、最後に三人だけが残った。
22:59 蔵本栞が退出しました。
23:03 久保田怜司が退出しました。
美緒はアイコンを、教室の集合写真から白い無地へ変えた。翌朝までにグループを削除するつもりだった。
だが午前零時、通知欄に〈参加者一名〉と表示されたとき、彼女はスマートフォンを伏せた。
連絡網は消えず、誰にも連絡しない一人分の部屋として残った。