消しゴムの境界線
好きな人は、消しゴムを半分に切る癖があった。
「なくすから、予備」
そう言って、片方をいつも筆箱へ、もう片方を机の奥へ入れていた。
席替えで、親友がその人の隣になった。
私は斜め後ろ。
授業中、親友が消しゴムを落とした。
好きな人は、自分の半分を差し出した。
「返さなくていいよ」
親友は受け取り、笑った。
私も以前、同じようにもらったことがある。筆箱の中には、角が丸くなった白い半分が残っていた。
二人だけの小さな記憶だと思っていた。
放課後、親友が机に向かって何か書いていた。
のぞくと、もらった消しゴムの紙ケースに小さな文字があった。
『次の休み、映画行かない?』
好きな人の字だった。
親友は私を見た。
私たちは同じ人を好きだと知っていた。
「どうしよう」
声が嬉しさを隠せていなかった。
「行けば」
私は自分の筆箱を開けた。
同じ白い消しゴム。こちらには何も書かれていない。
「でも」
「消しゴムの誘いくらいで大げさ」
強く言いすぎた。
親友は黙った。
私は机の上の境界線を指でなぞった。二つの机の間、ほんの数センチ。席替え前は、私がその隣にいた。
近さだけで特別だと思っていた。
親友が映画に行った翌週、二人は付き合い始めた。
席替えはまだ一か月先だった。
私は毎日、斜め後ろから二人を見た。
ノートを見せ合う。プリントを渡す。消しゴムを貸す。
ある日、私の消しゴムが折れた。
力を入れすぎたのだと思う。
二つに割れた白い欠片を見たら、急に涙が出た。
親友が振り返った。
「大丈夫?」
「粉が目に入った」
以前も使ったような言い訳だった。
親友は自分の消しゴムを差し出した。
「使って」
紙ケースには、映画の日付が小さく書き足されていた。
私は受け取らなかった。
「予備あるから」
机の奥から、新しい消しゴムを出した。今度は切られていない、一個のままのもの。
次の席替えで、私は窓際の後ろになった。二人から遠い席。
寂しかった。
でも、新しい消しゴムを使うたび、少しずつ角が自分の手になじんだ。
半分をもらうことより、一個を自分で使い切るほうが、今の私には必要だった。