湯のあとの無花果

砂漠の宿場で、浴場は贅沢と呼ばれていた。

井戸水一杯が命をつなぐ土地で、身体を洗うために捨てるなど許されない。けれど汗と砂を落とせず皮膚病が広がり、隊商の滞在も短くなっていた。

水路守ラシードは、捨てない浴場を考えた。

洗い水を三層の砂と炭へ通し、最後は果樹園へ送る。飲み水には戻さないが、無花果と棗なら十分育つ。問題は誰にどれだけ使わせるかだった。

「住民は週に一度、桶二杯まで無料。三杯目から銅貨一枚。旅人は最初から一枚です」

隊商長が不満を言った。

「旅人だけ払うのか」

「住民は毎月、井戸掘り税を払っています。あなた方の一枚は水代ではなく、濾過砂の交換代です。交換日と購入額はこの板に書きます」

さらに、浴場へ入る前に砂を落とす乾布場を設け、そこで働けば旅人も一回分無料とした。住民だけを優遇するのではない。水を守る仕事をした者に、同じ価値を返す仕組みだ。

最初の協力者は隊商の少年だった。彼が箒を握ると、宿の娘も乾布を縫い、果樹園主は排水溝を掘った。水を奪い合っていた人々が、同じ一滴の行き先を追うようになった。

開業の日、ラシードは入口の水量計を皆に見せた。貯水槽から出た量と、果樹園へ届いた量。その差は蒸気と持ち帰られた肌の湿りだけだった。

夕暮れ、最初の温かな排水が細い溝を流れた。乾いた土が濃い色へ変わり、一本の無花果の根元に吸い込まれていく。

枝先で、小さな緑の芽が震えた。

浴場の壁には、新しい言葉が刻まれていた。

――洗った水にも、次の役目を。

隊商長は帰路につく前、濾過砂一袋を置いていった。次に来たとき無料にしろとは言わず、寄付欄へ隊商名だけを書く。宿場の住民も、旅人の銅貨が自分たちの果樹を育てていると知り、乾布場の掃除を交代で始めた。井戸を守る者と水を使う者が別々ではなくなった。水量計の二本の針は、使った量と戻した量をほとんど同じところで指していた。その差を皆で毎朝確かめた。

湯気と土の匂いが、同じ風に乗った。