溶ける前に決めない
進路指導室を出た彼女は、コンビニで一番溶けやすそうなソフトクリームを買った。
「冬なのに?」
「頭が熱い」
私たちは学校裏の土手へ座った。
彼女は東京の服飾学校へ行きたい。けれど家では、地元の短大を勧められている。学費も生活費も違う。
「先生は何て?」
「現実を見ろって」
「正しいじゃん」
「正しいから嫌」
ソフトクリームの先端が傾き、彼女は慌てて舐めた。
「夢って、溶ける前に決めないとだめなのかな」
私は地元の就職試験を受ける。夢がないわけではない。早く家計を助けたいという現実のほうが、今は大きい。
「溶けたらカップに残るよ」
私が言うと、彼女は笑った。
「服の話してるのに、アイスの話で返す」
「アイス食べてるから」
彼女はスプーンをもう一本もらっていた。
「食べる?」
「自分で買えば」
「一人で急いで食べると頭痛い」
半分もらった。
冷たさが舌に広がる。
彼女は、上京しなかったら一生後悔する気がすると言った。私は、上京して家族に負担をかけても後悔するのだろうと思った。
どちらを選んでも、後悔は残る。
「正解を選びたいんじゃなくて、後悔しないほうを探してる」
私が言うと、彼女はスプーンを止めた。
「違うの?」
「後悔しても続けたいほうを選ぶんじゃない」
自分の進路へ向けた言葉でもあった。
就職しても、夜に絵を描き続けたい。彼女が地元へ残っても、服を作り続けることはできる。東京へ行けば成功するわけでもない。
でも、続けたい形は人によって違う。
ソフトクリームはカップの底で液体になった。
「溶けた」
「食べられる」
「形はなくなった」
「味は同じ」
彼女は最後の一口を私へ譲った。
翌週、彼女は東京の学校へ願書を出した。
私は就職試験の書類を出した。
卒業後、彼女は上京し、私は地元に残った。
一年目の冬、彼女から服の写真が届いた。私は仕事帰りに描いた絵を送り返した。
どちらも、思い描いた形とは少し違っていた。
それでも、溶けたから終わりではなかった。
季節が変わるたび、私たちはまだ続けているものを報告し合った。