無職が座るべき席
高峰杏奈は、異世界でも面接を受けるとは思わなかった。
召喚の間には長机が置かれ、王国の大臣たちが勇者候補の鑑定票を採点している。杏奈の票には《職業・なし》《魔力・0》とだけ記された。
「能力なし。二十六にもなって無職とは、異界でも採用されぬ人材らしい」
人事卿が赤い不採用印を押す。
会社を辞めた翌日に召喚されたのだから、職業がないのは事実だ。だが杏奈の前には、鑑定票に載らない能力が表示されていた。
《最適配置》
その場にいる全員を、一度だけ最も適した役職へ配置する。
長机の最上席には、十二歳ほどの国王が座っている。答弁はすべて人事卿が耳打ちし、軍務卿は地図を逆さに持ち、財務卿は帳簿より指輪を眺めていた。唯一、給仕の老女だけが、誰が何を必要としているか先回りして動いている。
杏奈は不採用票を持ち上げた。
「この国、配置がおかしくありませんか」
人事卿の眉が吊り上がる。
「役なき者が、王の人事へ口を出すな」
「では、一度だけ適性を見ます」
杏奈は能力を使った。
《最適配置》
召喚の間を、巨大な組織図が覆った。
光の線が全員の胸へ伸び、役職名を書き換えていく。軍務卿は《厩舎飼育員》へ、財務卿は《宝飾品鑑定補助》へ。給仕の老女には《宰相》の文字が輝き、彼女の盆が国璽へ変わった。
十二歳の王には《王位継承者・教育期間中》。
人事卿の胸には、《元人事卿/公金横領容疑者》と表示された。
最後に、杏奈の頭上へ金色の文字が現れる。
《国家再建責任者》
《権限:国王代理》
《任期:危機収束まで》
長机が自動で組み替わった。最上席の椅子が床を滑り、杏奈の背後で止まる。国璽は新しい宰相の手から杏奈へ向けて淡く光った。
人事卿が席を蹴って立つ。
「不正だ! 無職の女が王権など――」
近衛兵の槍が、その首元で交差した。《公金横領容疑者》の表示は、彼らにも読めている。
少年王は最初に立ち上がり、杏奈へ自分の席を示した。
「先生。僕は、どこで学べばいいですか」
杏奈は不採用票を二つに折った。
さっきまで彼女を採点していた大臣たちは、今や新しい組織図の中で、彼女から最初の指示が出るのを待っていた。