犬の名前が二つ
ペットサロン「くるみ尾」で、十六時のシャンプー台が二重予約になっていた。
予約名は、私の犬「ポルカ」と、沢渡さんの犬「ノノ」。どちらも小型犬一頭、同じ担当トリマーの楠瀬さんだ。
ポルカは保護施設から迎えて三か月。水を怖がり、前回は入口で震えて帰ってしまった。ノノは待合室で尻尾を振る白い老犬で、沢渡さんは「こちらは急ぎません」と譲ってくれた。
予約を入れられたのは、楠瀬さん、受付の轟木さん、沢渡さん。けれど三つの手掛かりが、妙な親切の形を示していた。
二匹のカルテの旧住所欄には、同じ保護施設の電話番号が書かれている。ノノの首輪には、ポルカが施設で使っていた青い布の切れ端。そしてシャンプー台の前には、一匹分ではなく並んだ二枚の滑り止めマットがあった。
「沢渡さん、ポルカを知っていたんですか」
彼女はノノの背を撫でた。
ノノも同じ保護施設にいた。怖がる子犬たちのそばで眠り、水飲み場まで連れていく犬だった。ポルカは譲渡前、いつもノノの後ろに隠れていたという。
私がサロンで困っていると施設から聞いた沢渡さんは、ノノと一緒なら水に近づけるかもしれないと思った。だが「うちの犬を頼って」と言えば、飼い主として私を責めるように聞こえる気がして言えなかった。そこで轟木さんに頼み、ノノを同じ時刻へ予約した。
旧住所欄の施設番号は、二匹が以前同じ場所で暮らした証拠。青い布は、ポルカが噛んで破いた古い毛布を沢渡さんが首輪に縫い直したものだった。
「勝手に重ねて、すみません」
沢渡さんが頭を下げると、ポルカが先にノノへ鼻を寄せた。
楠瀬さんは二匹を別々に洗わず、まず空の台へ並べた。ノノが前足をマットに乗せる。ポルカも半歩だけ続いた。
シャワーの音を小さくすると、二匹の尻尾が同じ速さで揺れた。
終わったあと、轟木さんが犬用の小さなクッキーを二つくれた。ポルカは自分の分をくわえたまま、もう一つをノノの前へ押した。
沢渡さんが笑う。
「今度は、遊ぶ予約にしましょう」