率ではなく円

除雪会社の経理補助、佐分利怜司は、冬になると請求書の山に埋もれた。燃料、替刃、待機人員。どれも雪が降れば増え、降らなければ説明が難しい。

県道除雪の入札で、自社は八千百六十万円の会社に敗れた。自社の札は八千二百八万円。差は四十八万円だった。社長は悔しがるふりをしながら、怜司へ一枚の請求書を作らせた。

宛先は落札会社。名目は『重機待機協力費』、金額は四十八万円。作業日は空欄で、発行日は開札前日になっていた。

「落札した会社を手伝うのは普通だ」

社長は言った。

「どうして昨日の時点で、相手が落札すると分かったんですか」

社長は、予定だからだと答えた。率で決めた協力費だとも言った。だが四十八万円は、売上の一パーセントでも、人件費の一日分でもない。自社と落札会社の入札差額そのものだった。

怜司が請求書の作成を止めると、社長は自分で社印を押した。印影の横に、前日の日付がある。

低価格調査の決裁会議で、落札会社は「他社との価格相談は一切ない」と申告した。県の担当者が契約承認を求めたとき、怜司は下請け体制の説明員として席を立った。

「相談がないなら、この請求書は何の対価ですか」

机に置いた一枚には、落札会社の名、四十八万円、開札前日の日付、自社の社印。委員が入札一覧を横へ置く。差額欄も四十八万円だった。

社長は偶然だと言った。怜司は、率ではなく円まで同じです、と答えた。

請求書番号は、まだ前月分の続きにもなっていなかった。社長が鉛筆で書いたメモには『差額48=協力』とあり、作業車両の台数欄は空白だった。委員が、落札会社から発注書は来ているのかと尋ねる。怜司は、ありませんと答えた。作業も発注もないのに、開札前から金額だけが確定している。雪の量ではなく、負ける幅に値段が付けられていた。委員たちは、空欄の作業日と確定済みの金額を交互に見た。

委員長の手は承認印の上で固まり、契約書の頁だけが空調の風で一度めくれた。