王女ではなく侍女を守る
王女護衛の選抜試験で、候補者たちは金髪の人形を囲んだ。
王女と同じ衣装を着せた標的を守る。それが課題だと告げられていたからだ。だがゼルピアだけは円陣を離れ、壁際で記録札を配る侍女ロアナの前へ立った。
「持ち場へ戻れ」
王弟である試験官が命じる。
「今、狙われているのはこちらです」
「侍女一人と王女を比べるな。命令違反で失格にするぞ」
ロアナは王女の外出に必ず同行し、毒見も着替えも逃走経路の確認も一人で担ってきた。袖口には剣ではなく、荷物と薬箱でできた古い擦り傷がある。豪華な人形しか見ていない候補者の中で、ゼルピアだけがその手を見ていた。
彼の杖先は人形へ向いていたが、魔力の流れだけが途中で曲がり、ロアナへ集まっていた。候補者が命令だけを見るか、実際の危険を見るかを測る仕掛け――本来はそういう試験のはずだった。
ところが見破られた王弟は、恥を隠すため術を止めなかった。
ロアナは『私は構いません、持ち場へ』と頼んだ。ゼルピアは人形を見もせず答える。『護衛は身分の札を守る仕事ではありません。攻撃が選んだ人の前へ立つ仕事です』。その言葉を聞いた本物の王女が、貴賓席でそっと身を乗り出した。
第一撃《王威砲》が放たれる。金色の衝撃と煙が壁際を覆い、大理石の柱が折れた。王弟は不機嫌そうに採点官へ目をやり、奇妙なものを見た。
床へ散った記録札が、ロアナの足元だけ一枚も動いていない。
煙が晴れる。ゼルピアは右肩を前へ出した同じ姿勢で立ち、ロアナは彼女の背後で札を順番どおり抱えていた。王女人形は衝撃で倒れている。ほかの候補者はそれを支えるのに必死だった。
「標的を放棄した。失格だ!」
「人形を守れとは聞きました。人を見捨てろとは聞いていません」
ざわめく貴族席を黙らせようと、王弟は王笏の第二封印を外した。王城の反乱鎮圧に使う《獅子雷界》が、ゼルピアとロアナだけを囲む。試験官長が中止を宣言したが、雷はもう落ちていた。
煙が消えても、ゼルピアは同じ姿勢。ロアナは震える指で、彼女の採点札へ「合格」と書き込んだ。
王弟が測定水晶を突きつける。水晶の内部で数字が増え、桁が足りなくなり、最後に王家の紋章ごと表示が消えた。
《防御値:測定不能》