王都の大火を燃料庫へ
炭運びブロネクは、黒い粉を落とすたび城の使用人に嫌な顔をされた。
地下倉庫から厨房、浴場、鍛冶場へ炭袋を運ぶ。火がつけば料理人の手柄、剣が打てれば鍛冶師の手柄。彼には煤と腰痛だけが残った。
技能も、燃料を運ぶためだけのものだった。
【燃料搬送:燃えている物一件を、指定した炉へ運ぶ。搬送中、その熱と炎は周囲へ移らない】
「燃えてから運ぶ馬鹿がどこにいる」
厨房長はそう笑い、説明文を読み間違いだと決めつけた。
敵の火術師が王都へ《食らう炎》を放った夜、笑う者はいなくなった。赤い火は建物から建物へ飛び、石壁まで燃料に変える。水をかければ水面を走り、土を被せれば地中へ潜る。十分で下町の半分が炎に包まれた。
避難路の先には病院があり、寝たきりの患者が百人いる。宮廷魔術師は王城だけを結界で囲み、市民へ延焼を止めろと命じた。
ブロネクは空の炭籠を背負い、大通りの中央へ立った。
火術師が城壁の外から嘲る。
「その火は都すべてを食べるまで消えぬ!」
「なら、ずいぶん大きな燃料だ」
食らう炎は一つの術式でつながっている。建物ごとに見えても、燃えている物は一件だった。
ブロネクが指定した炉は、城外に置かれた敵軍の氷結攻城炉。火に弱いため、厚い氷壁で守られている兵器だ。
彼が炭籠の口を一度開くと、王都中の炎が細い赤布のようにほどけた。屋根、窓、石畳から熱だけが抜け、すべて籠へ吸い込まれる。搬送中は周囲へ燃え移らない。ブロネクの服も、病院の白いカーテンも焦げなかった。
次の瞬間、赤布は城壁を越え、指定炉へ届いた。
氷結攻城炉は内側から真っ赤になり、敵の氷壁と砲身を一息で蒸発させた。火術師の杖まで燃料庫の札をつけて溶ける。
王都には煤の匂いだけが残り、病院の時計が止まらず時を刻んでいた。
市民は消えた炎を見てから、煤だらけのブロネクを見た。厨房長は王城の結界が都を救ったと報告しようとしたが、焦げていない病院と溶けた敵炉が証拠になった。炭籠へ投げ込まれたのは、もう炭袋ではなく王都の救援勲章だった。
《職業が【炭運び】から【劫火燃送王】へ書き換わりました》