画面の外側
皐月は朝食まで写真に撮る。紫乃は自分の顔が写るたび、投稿前に消してもらう。
同じ部屋に暮らしていても、残したい皐月と、残されたくない紫乃のあいだには、いつも画面一枚分の距離があった。
ある夜、皐月の配信中にコメントが流れた。
〈青いカーテン、駅前のマンションで見た〉
続いて、建物の外観写真が貼られた。窓の位置まで合っている。
紫乃は配信を切った。皐月はすぐ再開しようとした。
「消えたら、相手が喜ぶだけ」
「続けたら、住所が増えるだけ」
「仕事なんだよ」
「ここは私の住所でもある」
その一言で、皐月は黙った。紫乃は怖いときほど怒ったような声になる。皐月はそれを理解しているつもりだったが、理解したところで配信の収入は戻らない。
二人は過去の投稿を遡った。窓に映る看板、宅配ラベル、最寄り店の限定商品。紫乃は削除を急ぎ、皐月は証拠を残したがった。
紫乃は、危険になったのは皐月の軽率さのせいだと思った。皐月は、発信する女性だけが隠れ続けるのはおかしいと思った。謝罪と反論を始めれば朝まで終わらない。
「先に保存。あとで消す」
皐月が言う。
「保存先はクラウドじゃなく外付け」
紫乃が答える。
意見は違ったが、手は止まらなかった。皐月が脅迫コメントを画面録画し、紫乃が時刻とアカウント名を表へ入れる。警察相談用のフォルダを作り、管理会社へ連絡する文面を整えた。
管理会社へ送信したあと、警察相談の受付番号を紙にも書いた。どちらかの端末が使えなくなっても残るよう、冷蔵庫の内側へ貼る。
午前三時、青いカーテンを外した。皐月は色が好きだった。紫乃は以前から、目立つと思っていた。
代わりのカーテンはない。二人はシーツを窓へ留めた。皐月が上の角を持ち、紫乃が椅子に乗って洗濯ばさみを挟む。
「配信、やめないから」
「やめろとは言ってない。部屋を映さないで」
「紫乃も映らない」
「それは前から」
少しだけ笑い、すぐに作業へ戻った。
翌朝、皐月は机の向きを壁側へ変えた。紫乃はカメラに入らない床へ延長コードを這わせる。
配信開始のランプが点く前に、二人は画面の外へ同じ一歩を下がった。