留守番電話、残り六件

録音された声でも、自分の名前を聞けば、自分の寿命が一日減る。再生するたび一日なので、留守番電話には名前を入れないのが常識だった。

常盤直史の古い携帯には、長船絵茉からの伝言が六件残っていた。絵茉は七年前に死んだ。六件とも最初に「直史」と言う。

一件目は、牛乳を買ってきて。二件目は、傘を持っていった? 三件目は、終電に間に合わない。四件目は、鍵を忘れた。五件目は、病院から。六件目だけ、内容を最後まで聞いたことがない。

毎年、命日に六件を順番に再生した。六日ずつ減る。再生後はカレンダーから六枚を破り、電池へその年の日付シールを貼った。友人には、文字起こしすればいいと言われた。文字なら減らない。だが「直史」の最初の息継ぎまで、文字にはならなかった。

今年、携帯の電池が膨らみ、裏蓋が閉まらなくなった。修理店の若い店員は、データ移行には全件を一度再生する必要があると説明した。

「こちらで再生しても、お客さまが店内にいれば減ります」

「いなければ?」

「名が誰を指すか確定しないので、移行に失敗します」

直史は透明な防音箱の前に座った。寿命票を机に置き、店員が六件を流す。

牛乳。傘。終電。鍵。病院。五日が消えた。

六件目で、絵茉の声はいつもより遠かった。

「直史。たぶんこれを聞く頃、私は――」

そこで毎年止めていた。今回は再生ボタンから指を離した。

「私はまだ生きてる。だから、帰ってきたら怒って。名前も一回くらい呼んで」

事故の前日に入った伝言だった。直史は笑ったが、絵茉の名を呼ばなかった。呼んだ側ではなく、聞いた側が減る世界で、死者へ届かない名だけは何も減らさない。それでも声にする気になれなかった。

移行は成功した。新しい端末には六件が並び、再生回数はすべてゼロに戻った。

古い携帯は回収箱へ入れず持ち帰った。新しい端末の六件にはロックをかけ、解除番号を絵茉の誕生日ではなく、牛乳の賞味期限にした。膨らんだ電池には、命日を書いた小さな丸いシールが七枚重なっている。裏蓋の隙間から、六件目の波形を印刷した細い紙片が、白い舌のようにはみ出していた。