百一度目の婚礼朝
百回、エドガーは同じ朝を迎えた。征服国の女帝と婚姻しなければ祖国が滅び、逃げれば三人の仲間が処刑される。救出を頼むたび、誰かが祭壇まで辿り着けず死んだ。ある朝はアンネリが橋で、別の朝はジュディトが牢で、最後の朝はフェルミが小舟の上で息を止めた。エドガーだけが記憶を抱え、鐘の音まで同じ朝へ戻された。
百一度目、彼は誰にも合図を送らなかった。自分の失策で始まった戦争だ。今度こそ一人で契約し、三人を生かす。見捨てられるのではなく、自分から見捨てられた形にすれば耐えられると思った。
婚礼朝、女帝の間へ剣が一本運び込まれた。持ち主の女騎士アンネリは武装を解かれ、扉の外で膝をついている。
「剣だけ先に通した。帰るとき返して」
楽師席では情報屋ジュディトが、隣の椅子へエドガーの古い手袋を置いた。百回の記憶にはなかった行動だ。
「合図がなくても席は取れる。今朝はここ」
宮殿裏の水路では医師フェルミが小舟を杭へ結び、櫂を外して抱えていた。
「君が来るまで出航不能にした。勝手に助かるな」
エドガーは息をのんだ。三人にも断片的なループの記憶が残っていた。アンネリの剣には百回分の傷、ジュディトの手帳には毎回違う死因、フェルミの櫂には「一人で決めるな」と百本の刻みがある。
女帝が契約書を開く。そこへ三人が集めた証拠が揃い、戦争を始めたのが祖国の摂政だったと明らかになる。女帝は婚姻ではなく摂政の引き渡しを条件に和平へ同意した。
ついに誰も死なない朝。それでもエドガーは震えた。ループが終われば、三人は百回の苦しみを思い出し、自分を責めて去るかもしれない。
「僕は百回、皆を死なせた」
アンネリは剣を取らず、ジュディトは隣の椅子を引き、フェルミは櫂を水路へ戻さなかった。
「だから百一回目は、全員で帰る」とジュディト。
エドガーは婚礼印ではなく手袋を取った。剣のある扉、空いた席、動かない小舟。時間が先へ進み始めても、三つの帰還先だけは彼を置いていかなかった。