百八十食の空白

社員食堂の開店一時間前、鹿島涼花は炊飯器の表示を見て、米が百八十食分足りないことに気づいた。

後輩が翌週の予定表を見て発注し、在宅勤務日と出社日を一週取り違えていた。今日の予約は八百十食。炊けているのは六百三十食分だけだ。

倉庫の米を追加で炊いても、昼休みの後半にしか間に合わない。責任者は「最初から小盛りにして、足りなくなったら売り切れ表示」と言った。だがこの食堂を最後に使うのは、会議をずらせる管理職だけではない。交代時間が決まっている清掃員や警備員は、後半へ回れない。

涼花は予約データを部署別ではなく来店時刻別に並べた。十二時半以降の利用者には、パンを選ぶ人が多い。冷凍庫には翌日用のうどんが二百食あり、だしもある。今日の主菜は鶏の照り焼きで、ご飯にも麺にも合わせられる。

「売り切れにせず、二つの定食に分けます」

涼花は追加の米を炊きながら、照り焼きうどんを百八十食作る段取りへ変更した。最初の時間帯にはご飯を優先し、選択できる人には麺も案内する。後輩には謝罪札を書かせず、券売機の予約数と炊飯量を一緒に照合させた。

「八百十を六百三十と見間違えたわけではないんです。日付を見ていませんでした」

「なら、数字の確認だけ増やしても防げない。発注画面に曜日と出社率を大きく出そう」

涼花は予定表の参照先を一つに統一し、前日夕方に来店予約と食数の差が自動で表示されるよう依頼した。発注者と調理者が別々に確認する欄も作った。

開店後、麺は予想以上に早くなくなり、米は最後の交代時間まで残った。厨房では二つの盛り付けが並び、いつもより声を掛け合う回数が増えた。警備員の女性が「今日は選べたから、売り切れより得した気分」と笑った。後輩もようやく顔を上げ、「不足を隠すより、選択肢にできるんですね」と言った。涼花は、毎回奇策で救うのではなく、次は不足そのものを前日に見つけるのだと答えた。

責任者は涼花へ、本部の商品開発へ移れば現場の不足に振り回されずに済むと言った。涼花は、以前ならその誘いを受けたかもしれないと思った。

けれど終業後、彼女が提出したのは、食数管理を含む運営主任への立候補書だった。

涼花は次週の発注確認を、自分の予定へ入れた。