百円の未来

文化祭の占い屋で、志摩崎湖々路は百人分の未来を書いた。

水晶玉は百円ショップの透明なボール。タロットは美術部員の手描き。占い方など誰も知らないので、湖々路は客の顔を見て、それらしい言葉を小さな紙へ書いた。

『探し物は足元にあります』

『今日、赤いものを選ぶと吉』

『大切な人から連絡が来ます』

当たっても外れても、客は笑って帰った。

午後、同じクラスの淡路弦太が来た。

「俺も」

「身内は信憑性が下がる」

「最初からないだろ」

「百円」

「友達割引」

「二百円」

弦太は百円玉を置き、水晶玉の前へ座った。

湖々路は困った。

弦太とは中学から一緒だった。来春、彼が海外へ行くことも知っている。家族の都合で、戻る時期は決まっていない。聞いた日から、湖々路はその話を避けていた。

カードを一枚引かせる。

描かれていたのは、海へ沈む太陽。

「悪そう」

「絵が下手なだけ」

「未来は?」

「……遠くへ行く」

「知ってること言うの、占い?」

「じゃあ、帰ってくる」

「いつ」

「そこまでは見えない」

「便利だな」

湖々路は紙へ何も書けなかった。

列ができ始め、後ろから急かされる。弦太は席を立とうとした。

湖々路は慌てて書いた。

『約束を一つ作ると、未来は少し近くなる』

弦太が読む。

「占い師、約束してくれる?」

「相談料、別料金」

「百円しかない」

「じゃあ一個だけ」

何を約束するか、二人ともすぐには思いつかなかった。

手紙。通話。帰国したら会う。どれも立派すぎて、言葉にした瞬間に守れなくなりそうだった。

弦太が机の隅にあった飴を指した。

「次の文化祭でも、これ食べる」

「来年ここに来られるの?」

「来られなくても、同じ味」

「それ、約束として弱くない?」

「弱いほうが切れない」

湖々路はソーダ味の飴を一つ渡した。自分も同じものを口へ入れる。

弦太が教室を出たあと、湖々路は彼の百円玉を釣り銭箱へ入れず、ポケットへしまった。

一年後、その文化祭に弦太はいなかった。

昼休み、湖々路のスマートフォンへ、青い飴の写真が届いた。背景には見知らぬ街の空が写っている。

湖々路も売店で同じ飴を買い、写真を返した。

占いは当たらなかった。

未来が近づいたのではない。遠いままでも、同じ味を選べる日が一つ増えただけだった。

それで百円分には十分だった。