百年分の埃の下
王立記録庫の埃払いメゾルは、古い命令書ほど静かに扱った。
紙は破れ、印章は薄れ、人は死ぬ。それでも命令だけは残り、後の世を動かす。だから彼は、一枚の上へ積もった埃にも責任があると思っていた。
与えられた技能は単純だった。
【埃払い:長く積もり、元の姿を隠す微細な堆積物を除去する。】
新王の即位式の日、地下から古代守護巨兵が目覚めた。
石の腕で宮殿を突き破り、胸の命令晶を赤く光らせる。
《簒奪者ノ血統ヲ殲滅セヨ》
巨兵は新王へ拳を向けた。王家の血を守るために造られたはずの守護者が、王家を敵と認識している。
魔術師が命令晶を解析すると、三百年分の王命が幾層にも焼きつき、最後に発行された偽命令が最上面を覆っていた。だが晶を砕けば、巨兵の炉心が爆発して王都の半分が消える。
兵が新王を逃がす間、メゾルは巨兵の足元へ走った。
彼には命令晶が、赤い埃を厚くかぶった展示品に見えた。
「近づくな!」と記録長が叫ぶ。「あれは国家術式だ!」
「長く積もって元の姿を隠しているなら、私の担当です」
巨兵の膝を棚のようによじ登り、胸へ布ばたきを当てる。
一度払うと、先王の疑心から生まれた粛清命令が赤い粉になった。二度目で、内乱期の非常命令が剥がれる。三度、四度。百年ごとの恐怖と都合が、埃の層として宙へ舞った。
巨兵の拳が新王の頭上で止まる。
最後の薄い堆積を払うと、命令晶の底から、建国王が刻んだ最初の文字が現れた。
《王ヲ守レ、デハナイ。民ヲ守レ》
巨兵の赤い目が青へ変わった。
振り下ろされるはずだった拳は開かれ、崩れかけた宮殿を両腕で支えた。さらに逃げ遅れた市民を掌へ乗せ、広場へ静かに運ぶ。新王は巨兵に守られる側ではなく、その命令へ従う側として頭を下げた。
舞い落ちる赤い埃の中から、偽命令に使われた反逆者の印章も見つかった。記録長は震える手でそれを証拠箱へ収める。
メゾルが布ばたきを腰へ戻すと、命令晶から青い光が降り、彼の職員札を清めた。
【職業「記録庫埃払い」が上位職「古令浄覧師」へ書き換えられました】