盗まれた一日

地下法廷の棺には、監査官ヨルメの死体が横たわっていた。

彼は教会の施し金が武器商へ流れている証拠を掴み、その夜に「事故」で死んだ。帳簿は燃やされ、明朝には犯人とされた下働きが処刑される。

記録官エルゼナは棺の蓋を閉め、蘇生鐘へ手をかけた。

死者へ一度心臓を打たせるたび、呼び戻した者から、すでに生きた一年が奪われる。身体は一歳若返り、その一年の記憶も消える。

エルゼナは三十二歳だった。

一打目。

ヨルメの胸が持ち上がる。彼女の指から結婚指輪の跡が消えた。三十一歳の一年を失ったのだ。夫と別れた理由も、その冬の顔も思い出せない。

「誰に殺された」

死者の唇が動く。「大……」

心臓が止まる。

二打目。三打目。

彼女の髪が長くなり、頬の疲れが薄れる。ヨルメは一拍につき数語しか話せない。

「大司教の」「命令で」「会計院長が」

鐘を打つたび、エルゼナの身体から一年が剥がれた。二十七歳。剣を習った記憶が消える。二十四歳。教会へ入った朝が消える。二十歳。文字を速く書く癖だけが残り、誰に教わったか分からなくなる。

扉の外で衛兵が錠を壊し始めた。

「証拠はどこ」

十七歳になった彼女は、袖が余る法衣で鐘を鳴らす。

ヨルメが答える。「主祭壇」「三段目」「銀板の下」

それだけでは足りない。誰が、いつ、何を受け取ったか。法廷で覆せるだけの証言が必要だ。

エルゼナは鐘を連打した。

十五歳。十三歳。十一歳。

机が高くなり、足が床へ届かなくなる。大人の語彙が、意味のない形で頭から滑り落ちる。それでも問いだけは紙へ書いてあった。

ヨルメは二十八回目の鼓動で、武器商の名と金額を言い切った。

衛兵が扉を破る。同時に死者の胸が静かになった。

彼らは棺の横に立つ小さな子どもを見て足を止めた。法衣は床へ広がり、鐘槌を握る手は五歳ほどに縮んでいる。

祭壇の隠し板から帳簿が見つかり、処刑は止まった。大司教たちはその日のうちに拘束された。

だが誰が証言を引き出したのか、子どもは知らなかった。

「あなたの名前は?」と衛兵が尋ねる。

少女は泣きそうな顔で首を振った。エルゼナという音は読めても、それが自分だとは分からない。

彼女は棺の男を指し、幼い声で尋ねた。

「この人、どうして寝てるの?」

勝利の記録が書かれた朝、記録官だけが、その日へ生まれる前まで若返っていた。