真実になった夜

ザフィラは裁判所の廊下で、一つの嘘をついた。

「火事の夜、イヴェットは私の部屋にいました」

本当は、彼女がどこにいたのか知らない。だが、放火犯として捕らえられた親友が無実だということだけは分かっていた。火薬庫の鍵を持つ役人たちは証言を隠し、明朝には判決が下る。

イヴェットは火事の前日、帳簿の不正をザフィラへ打ち明けていた。逮捕されたときも役人の名を言わず、「あなたまで巻き込みたくない」と口を閉ざした。だからザフィラは、自分から巻き込まれることにした。

嘘を真実にできる店は、裁判所の地下にあった。

「今の証言を、本当にしてください」

仕立屋のような店主は、銀の針へ黒い糸を通した。

「嘘を一つ真実へ縫い直す代金は、その嘘に登場する人との記憶すべて」

イヴェットと出会った日。夜勤明けに同じパンを分けた朝。失恋したザフィラを浴場へ引きずっていった夜。二人で小さな部屋を借り、天井の染みへ名前をつけた時間。

ザフィラが病気で働けなかった月、家賃を払ったのもイヴェットだった。返すと言うと、「老後にまとめて」と笑った。二人とも、老後がいつ来るかなど考えていなかった。

それらを失えば、親友を救ったことさえ分からなくなる。

「真実になった後、私は彼女を知らない人になるんですね」

「あなたの中ではね。世界のほうには、二人で過ごした火事の夜が新しく生まれる」

ザフィラは懐から紙片を出した。ここへ来る前、自分の字で書いておいた。

――この紙を持っているあなたへ。イヴェットを信じて。彼女はあなたが忘れても、あなたの親友です。

紙を胸元へ留め、黒い糸に触れる。

針が空を縫うたび、笑い声が一つ、朝食が一つ、涙を拭いた指が一つ消えた。最後に、イヴェットという名へ結びついた温度が抜け落ちる。

地下の扉が開いた。役人が駆け込み、記録が覆ったと叫ぶ。

解放された女が廊下の向こうから走ってきた。

「ザフィラ!」

知らない人だった。

ザフィラは胸の紙を読んだ。

そして、ためらう足を一歩だけ前へ出し、両腕を開いた。