祖父は七人いる
久礼海音の祖父は、遺産として七人残った。
意識のアップロードが不安定だった時代、祖父は五年ごとに完全保存をしていた。四十五歳、五十歳、五十五歳。最後は七十五歳。死後、七つの人格が同時に起動し、全員が自分こそ本物だと主張した。
しかも遺言の内容が違った。
四十五歳の祖父は会社を長男へ、五十五歳は社員へ、七十歳はすべて売って海音へ渡すと言った。七十五歳の祖父は認知データの欠損で、遺言そのものを覚えていなかった。
デジタル相続を専門とする海音は、法廷から「最も連続性の高い人格を一つ選べ」と命じられた。
七人へ同じ質問をした。
祖母との出会い、会社を興した日、海音が生まれた夜。答えは年齢ごとに少しずつ違った。若い祖父は成功を誇り、老いた祖父は後悔を語った。どれも嘘ではないから、かえって選べなかった。
最後に海音は訊いた。
「祖母が嫌いだった花は何?」
六人が得意げに答えた。薔薇、百合、菊、紫陽花。記憶記録からもっともらしい場面を探し出していた。
七十五歳の祖父だけが、長く黙った。
「知らない。聞いたことがなかった」
その一言で、海音は祖母が生前こぼした言葉を思い出した。
――あの人は私を愛していたけれど、私を知ろうとはしなかった。
海音は「本物」を選ぶのをやめた。法廷命令に背き、遺産を七等分し、七人を同じ家へ移した。若い祖父は怒り、老いた祖父は笑った。毎日食卓で言い争い、互いが忘れたことを補い、互いの思い込みを訂正した。
一年後、七人は統合を申し出た。
ただし記憶を平均化するのではなく、矛盾したまま保存する方式を選んだ。一人の中に、会社を手放したい祖父と守りたい祖父、祖母を愛した祖父と理解しなかった祖父が同居した。
統合後の祖父は海音に言った。
「私は、どの私も本物だった。だから、どの私も不十分だった」
海音はそれ以来、アップロード人格の真贋を争う仕事を辞めた。代わりに、複数の過去を共存させる調停人になった。
永遠に残るのは、完成した一人ではない。
変わるたびに置き去りにした自分たちなのだと、七人の祖父から教わったからだ。