空のランドリーバッグ
洗濯物を全部機械へ入れると、ランドリーバッグは急に役目をなくした。
純花が椅子へ置いた青い袋は、空調の風を受けて一度ふくらみ、すぐ横倒しになった。持ち手だけが上を向き、誰かが座り損ねたような形になっている。
午前二時十分。
コインランドリーには、純花のほかに客が一人いた。顔は見えない。奥の乾燥機へ背を向け、イヤホンをしたままスマートフォンを見ている。その足元にも白いランドリーバッグがあり、やはり中身を失ってくしゃくしゃに潰れていた。
青い袋と白い袋。
空調が回る。
ふくらむ。
しぼむ。
乾燥機が回る。
ごう、ごう。
雨が看板を打つ。
ぱた、ぱた。
二つの空袋だけが、同じ呼吸をしているように見えた。
純花は少し笑いそうになり、やめた。笑えば相手に気づかれるかもしれないし、何がおかしいのか説明できない。ただ、袋まで自分と同じ顔をしているようで、妙に可笑しかった。
今週、部署の異動を言い渡された。机の引き出しを空にし、共有フォルダの担当名を外し、後任へ仕事を渡した。望んでいた異動ではない。必要とされなくなったわけではないと説明されたが、空いた机を見た瞬間、自分の形まで潰れた気がした。
洗濯機の丸い窓では、シャツや靴下が水の中で絡まり、すぐ離れる。袋に入っていたときより、ずっと場所を取っていた。
奥の客の乾燥が終わった。
電子音が三度鳴る。客はイヤホンを外さず、温かい服を白い袋へ次々に入れた。袋は底から立ち上がり、最後には丸く満ちた。持ち手を結び、片手で提げて店を出る。
ベルが鳴り、雨の匂いが入り、閉じる。
椅子には青い袋だけが残った。
純花はそれを見て、今度は小さく笑った。白い袋が満ちても、自分の袋まで満ちるわけではない。当然のことだった。
洗濯が終わるまで、青い袋は何度かふくらみ、倒れた。
純花は拾い上げず、そのままにした。
やがて乾いた服を入れると、袋はまた形を持った。ただし来週には空になる。役目のある形と、何も入っていない形を、何度でも行き来する。
帰り道、純花は異動先のことを考えなかった。
空である時間まで失敗に数えなくていいと、今夜は袋から教わったことにした。