空気管の向こう
夕刊社の編集会議で、写真原版庫の鍵が社会部デスクから消えた。編集長の早戸は鍵を赤い校正紙の上へ置き、三人の記者に特報写真の流出を問いただした。締切ベルが鳴り、全員が壁時計を見上げた数秒後、鍵はなくなっていた。会議室の扉は内側から掛かり、窓は開かない。
容疑者は写真記者の鴻池、整理部員の須々木、印刷主任の釜萢。原版庫には三人の不正を示す未掲載写真がある。衣服、鞄、机の引出しを調べても鍵は出ない。壁には、印刷階へ原稿を送る古い気送管の発信口が残っていた。
気送管は電子送稿が普及してからほとんど使われず、若い須々木は動かし方さえ知らなかった。釜萢は印刷階の受信口を封鎖したと主張し、鴻池は古い設備の故障だと笑った。だが会議室の密室性が厳しいほど、人の出入口とは別に室外へ続く細い経路の意味が大きくなる。
手掛かりは三つだった。第一に、気送管の制御記録は、鍵が消えた午後二時八分に一個のカプセルを印刷階へ送っていた。第二に、会議室のカプセル棚は十本分の輪染みがあるのに、並んでいるのは九本だけだった。第三に、鴻池の袖口には発信口の蓋に使う黒鉛潤滑剤が付き、彼は会議前に空カプセルを「レンズケース」として机へ持ち込んでいた。
鴻池は「管を動かせば大きな吸引音がする」と反論した。だが締切ベルと輪転機の始動音が重なった二時八分なら、室内の誰にも聞き分けられない。
私は印刷階へ電話し、受信籠を開けさせた。空のはずのカプセルから鍵が出た。「鴻池さんはベルの瞬間、鍵をカプセルへ入れて発信口へ落とした。送信記録が移動時刻を、一本足りない棚が容器を、袖の黒鉛が発信口を扱った人物を示す。鍵は会議室のどこにもない。人の通れない管だからこそ、持ち物検査を受けずに一階下へ逃がせたのです」写真記者の鴻池さんなら、カプセルをレンズケースと呼んで持ち込んでも不自然ではありません。締切音は偶然の目隠しではなく耳隠しになった。三つの手掛かりは、鍵が隠された場所ではなく、すでに別の階へ到着していることを示していました。