競売場の十三番パドル
王都競売場で、宝石商ザイフォンは十三番のパドルを受付係エトワへ投げつけた。
「私は手を上げていない。三千万金貨の落札は無効だ」
壇上では希少な星紅玉が落札済みの光を放っている。
「ですが、十三番から三度入札がありました」
「お前が勝手に操作した。平民の給料で払える額ではないな? なら、身体で償え」
客席から不快な笑いが漏れた。
エトワは取消申請書を置く。
「誤操作でしたら、〈入札意思なし〉へご署名ください」
「当然だ」
ザイフォンは商会印を押し、さらに〈受付係が価格を吊り上げた〉と追記した。
「これでお前は終わりだ」
エトワは十三番パドルを拾い、中央の琥珀を押した。
『二千万。まだ上げろ』
ザイフォン自身の声が再生される。
『二千五百万。向かいの老人が降りるまで吊れ』
競売用パドルは、手違いを防ぐため持ち主の音声と握力紋を同時記録する。三度目の入札の直前には、彼が隣席の手下へ囁く声も残っていた。
『星紅玉は私の出品だ。自分で吊り上げ、老人へ押しつける。失敗したら受付娘のせいにしろ』
客席の老人がゆっくり立つ。王立市場監督官だった。
ザイフォンはパドルを奪い、床へ叩きつける。
星紅玉を競っていた老人は、もう宝石を見ていなかった。会場の商人たちも同じだった。信用で商う者たちの視線が、壊れたパドルより冷たい。
「違法な録音だ!」
「入場契約の第一行です」
エトワが示した券には、〈全入札を記録する〉と大字で書かれ、ザイフォンの商会印がある。
「なら落札代を払えば済む。私は大商人だぞ」
「ご自身の品へ架空入札を行う行為は、市場詐欺です」
「証拠はこの壊れた棒だけだ!」
競売人が槌を一度鳴らした。全パドルの記録は落札ごとに王立台帳へ転送されている。
天井の表示からザイフォン商会の取引資格が消えた。
監督官は取消申請書を受け取り、彼が押した印を確かめる。
そして客席全体へ向け、処分書を読み上げた。
「ザイフォン商会の競売資格永久停止、および価格操作・詐欺未遂容疑による拘束命令を通達する」