終末爆発を袋縫いに
ザックルの袋は丈夫すぎて、魔術師ギルドでは嫌われていた。
「収納魔法があれば麻袋など不要だ」
工房長は納品された百枚を踏みつけ、代金を半額にした。ザックルが縫い代の重要さを説明すると、若い魔術師たちは豆袋職人が魔法理論を語ったと腹を抱えた。
彼の技能は、地味だが一度も中身を漏らしたことがない。
【固有スキル《袋縫い》:素材の端を内側へ包み込み、内容物が外へ漏れない閉じた縫い目を作る】
笑い声が止まったのは、地下の魔力炉が暴走したときだった。
新型炉へ規定の三倍の魔力を入れた工房長が、警報を隠そうとして制御核を壊したのだ。
赤い光が地下から膨れ上がる。爆発すればギルドだけでなく、王都の半分が消える。魔術師たちは転移で逃げようとしたが、空間が揺らいで術式は発動しない。
「封印箱を持ってこい!」
「核へ近づけば蒸発します!」
責任を押しつけ合う彼らの脇を、ザックルは麻糸と曲がり針だけ持って地下へ降りた。
炉心には球状の亀裂が生まれ、その隙間から炎と雷と圧力が噴き出している。
袋の中身とは、豆や金貨だけではない。外へ出ようとするものを包めば、それはすべて内容物になる。
ザックルは亀裂の周囲にある空間を両手でつまんだ。見えない布端が現れ、爆発寸前の光を内側へ折り込む。
一針ごとに轟音が小さくなる。
熱を縫い込み、衝撃を縫い込み、最後に燃え上がる魔力を返し縫いで閉じた。
地下室の中央に、拳ほどの黒い袋が、石床をへこませるほど重い音を立てて落ちる。中では王都を消すはずだった爆発が何度も弾けているが、煙一筋漏れなかった。
工房長は助かったと知るなり、危険物を勝手に作った罪をザックルへ着せようとした。
しかし黒い袋の表面には、炉へ過剰魔力を注いだ者の署名と時刻が、内容物の表示として白く浮かんでいる。
監察官が工房長の肩をつかむ中、ザックルは踏まれた袋百枚の正規代金と危険手当を請求した。
【職業《袋物職人》が上位職《災厄封包師》へ書き換わりました】