編み目の間違い
祖母の加乃は、孫の涼月へ編み物を教えた。
最初に作るのは真っ直ぐなマフラー。表編みだけなら簡単だと言われたが、涼月の編み地は幅が増えたり減ったりする。
「ここ、一目落ちてる」
加乃は間違いを見つけるたび、何段もほどいた。
毛糸が縮れ、涼月は嫌になった。
「少しくらい、そのままでいいじゃん」
「先へ行くほど大きな穴になる」
二人は黙った。
翌週、祖母の家へ行くと、編みかけのマフラーが籠に入っていた。ほどいた場所まで、加乃が編み直してある。
けれど一か所、色の違う糸が結ばれていた。
「同じ色、足りなくなった」
薄灰色の中に、白い一段が入っている。
「間違いみたい」
「間違いじゃない。足りなかっただけ」
涼月は笑った。祖母にも予定どおりにならないことがある。
その日から、落ちた目は直すが、少し不揃いな幅は残した。二人の手加減が交互に現れ、マフラーは波打った。
完成したのは春先だった。もう厚いマフラーは要らない。
加乃と涼月は庭の椅子へ並び、一本を二人の首に巻いた。短く、肩が触れ合うほど近づく。
毛糸から祖母の家の防虫剤と、何度も握った手の匂いがした。白い一段は首の後ろに隠れたが、指で触れれば、編み直した場所の温度が分かった。
翌冬、涼月は一人で帽子を編み始めた。途中で一目落とし、祖母へ持っていく。加乃はほどこうとしたが、涼月がその穴へ白い糸を通し、小さな星の形に縫った。「間違いじゃないことにする」。祖母はしばらく見てから頷いた。完成した帽子は少し大きく、加乃がかぶると耳まで隠れた。庭の椅子で二人は温かい茶を飲む。灰色の毛糸から防虫剤の匂いが薄れ、代わりに冬の日差しと祖母の髪油の香りが移った。
加乃は帽子の星を近所で褒められ、最初からそういう模様だと答えた。涼月は黙って笑う。白い糸へ指を当てると、ほどかなかった一目だけが、ほかより少し厚く温かかった。