繰り返し予定は解除しない

「不要になった繰り返し予定は、解除してください」

システム会社の総務から届く通知を、安達瑞穂は毎月読み上げた。

古川涼介との予定表には、木曜十二時半の《進捗確認》が三年分並んでいる。実際には十五分で仕事を終え、残りの時間で新しい店や最近読んだ本の話をした。会議室が取れない日は公園で弁当を食べた。

それでも題名を変えなかったのは、二人とも臆病だったからだ。仕事の予定なら毎週会える。私的な約束に直して断られたら、木曜日そのものを失う。

涼介のバンコク支社への転勤が決まり、最終木曜日が来た。時差は二時間。所属チームも変わる。《進捗確認》は、明日から本当に不要になる。

その朝、会議室予約システムから《来週以降は利用目的を確認してください》という通知が届いた。瑞穂は何度も削除画面を開いては閉じた。三年間の木曜日には、涼介が昇進試験に落ちた日も、瑞穂が家族のことで泣いた日も含まれている。消えるのは予定名だけなのに、二人の時間までなかったことになる気がした。

会議室で最後の弁当を食べたあと、瑞穂は予定の削除画面を開いた。

《この予定のみ》《これ以降のすべて》

指が後者の上で止まる。

「解除する前に、更新してもいいですか」

涼介が瑞穂の端末を受け取り、開始時刻を日本時間の十九時半へ変えた。題名から《進捗確認》を消し、《瑞穂と涼介の木曜日》と入力する。場所は《オンライン、または同じ町》になった。

さらに三か月後の木曜だけ、場所が東京のレストランになっている。涼介の帰国便はすでに予約済みだった。

「毎週は多くないですか」

瑞穂が聞くと、彼は不安そうに笑った。

「減らしたほうがいい?」

瑞穂は《承諾》を押し、終了日の欄を空白にした。次に自分の休暇予定を半年後のバンコクへ入れ、彼を招待する。

会議室を出るとき、涼介がドアを押さえた。瑞穂は通り抜けず、その手を取った。握手ではなく指を絡めると、彼のスマホに承諾通知が続けて鳴る。

「涼介さん。来週は何を話しますか」

「もう仕事の報告はいりません」

「では、声を聞いた報告をしてください」

不要になった繰り返し予定は解除する。

けれど同僚でなくなった二人には、その木曜日が初めて必要になった。