羽化する魔神を繭に戻す

養蚕人モルカは、王都の女たちへ絹糸を納めても門前払いされた。

舞踏会の衣装は仕立て師の名で売られ、蚕を育てた者の名は札にも載らない。湿度を一度誤れば一年分が死ぬ仕事なのに、貴族は「虫へ葉をやるだけ」と笑った。

彼女の技能は、蚕室の外で試されたことがない。

【天繭掛け:羽化前の生き物一体を、外から破れない繭で包む。対象の大きさと種類は問わない】

北山が割れたのは、春の満月だった。

山そのものが巨大な蛹だった。岩殻の内側で、古代魔神が千年の変態を終えようとしている。背に生えた六枚の翼が山腹を裂き、羽ばたき一度で三つの村が吹き飛んだ。

神官は魔神を討てと叫んだが、まだ殻の中にいるため剣は届かない。王は村人を餌にして羽化を遅らせ、その間に王族だけ逃がす命令を出した。

モルカは山を見上げた。

蚕が最も危ういのは、繭を作る直前だ。暴れても、外から固い殻を割ってもいけない。必要なのは殺すことではなく、もう一度安全に包むことだった。

彼女は腰の糸枠から一本の絹糸を引き、山頂へ向けて放した。

技能を使う。

白い糸が空を走り、山を一周した。次の瞬間には百周、千周、百万周となり、割れた岩殻も翼もまとめて覆っていく。魔神が腕を振るうたび繭は柔らかく力を逃がし、決して破れない。

六枚の翼が完全に包まれた瞬間、暴風は止まった。

巨大な白い繭は山の形で静まり、内部の魔神は再び眠りへ落ちる。村へ向かっていた岩雪崩さえ糸に受け止められ、一軒の屋根も潰れなかった。

王が用意した餌の檻だけが広場に残った。村人たちは扉を壊し、鍵を握っていた神官を中へ入れた。

モルカの指先には、朝露ほど細い新しい糸が光っていた。

白い繭から伸びた余り糸は、崩れた谷へ橋となって渡り、孤立した三村をつないだ。王の逃走馬車はその橋を渡る許可を得られず、餌にされかけた村人たちの前で止まる。絹商人たちは初めて、衣装ではなく命を守った糸の値を知った。

《職業が【養蚕人】から【神蛹封繭師】へ書き換わりました》