羽根の抜けたほうきで雪崩を掃く
山腹の村に、二度目の雪崩が迫っていた。
一度目で避難路は埋まり、家々の屋根まで白い壁に囲まれている。遠見役によれば、頂上の雪庇が落ちるまで四半刻。村人百六十人を谷へ降ろすには、道さえあれば十分だった。だが雪を掘るには三日かかる。
山岳便のガドは、一度目の雪崩から現れた氷巨人を倒し、その限定箱を開けた。
中身は、羽根が半分抜けた古いほうきだった。
【コモン:傷んだ道具】
【進路の邪魔を掃きます】
「家の玄関なら役に立つな」
傭兵の皮肉を背に、ガドは埋まった街道の起点へ立った。ほうきの柄は短く、雪面を撫でても掌ほどの筋しかできない。
それでも説明は「雪を掃く」とは書いていない。「進路の邪魔」を掃くのだ。
ガドは村の広場から谷の避難所へ向け、地図の上で一本の線を引いた。その線を頭に焼きつけ、ほうきを一度、大きく振る。
ぼふ、と気の抜けた音がした。
次の瞬間、街道を埋めていた雪が左右へ起き上がった。雪だけではない。倒木は根を傷めず脇へ移り、崩れた石垣は道端へ積み直され、放置されていた荷車まで向きをそろえて退く。村から谷まで、幅三間の乾いた道が真っすぐ開いた。
「走れ!」
ガドは最後尾に立ち、老人の背を押した。子ども、家畜、薬箱、種籾。全員が道へ入ったところで、頂上から地鳴りが落ちてくる。
二度目の雪崩が村を呑んだ。
だが開かれた道の上だけは、見えない箒が掃き続けるように雪が左右へ分かれた。白い奔流の中央を、人々は一列になって谷へ下った。
道の半ばで、老女の荷車の車輪が外れた。白い壁から小さな雪の腕が伸び、車軸を押さえる。ほうきは障害を消すだけでなく、進むために必要な形へ脇の物を並べ替えていた。
ガドは荷車を捨てさせなかった。中には村の種籾と、来春に植える果樹の苗がある。命だけでなく、避難した後の暮らしまで道の先へ運んだ。
最後のガドが避難所へ入ると、道は役目を終え、静かに雪へ閉ざされた。誰一人欠けていない。
抜けていたほうきの羽根が光となって戻る。
【百六十名の生存経路を完全開通】
【世界初認定――UR《天路清掃具・行く手だけを残す箒》へ昇格】