翡翠羽を抜く
イツカ・トロクは、翡翠色の羽を一本だけ曲げておいた。
百二十枚の羽で作った貢納外套。その中央、太陽紋の左下に、先がわずかに欠けた羽がある。密書は羽軸の裏へ、煤と樹液で細く書かれていた。
〈月が槍塔へ触れた時、南階段の兵を下げよ。地下水路より四十〉
敵都の検品役は、貢物に傷があれば必ず抜き取り、王直属の羽匠へ送る。曲がった一本を届けるために、残り百十九本を作った。
石門で検品将アクトル・ネムが外套を広げた。
「辺境の村が、これほどの羽をどこで得た」
「鳥からです」
「鳥は税を払わぬ」
「だから人が抜きます」
イツカの返事に、兵が槍尻を腹へ入れた。彼は膝をついたが、外套だけは泥へ落とさなかった。大事そうに扱うほど、敵は品物の価値を信じる。
アクトルは太陽紋へ顔を近づけた。欠けた羽に気づく。
「粗悪品を王へ出すか」
「抜けば紋が崩れます」
「だから抜く」
将は狙った羽を引き抜いた。羽軸の裏は掌側へ隠れた。表にはただ、天然の黒い筋がある。
「王の羽匠コヤル・イシに見せろ。村の首をいくつ取るか決めさせる」
羽は小箱へ入れられ、封が押された。外套とイツカは牢へ回された。
夜、尋問役は羽の入手先を吐かせようと、イツカの右手の指を一本ずつ石で潰した。
「鳥の巣はどこだ」
「空の下だ」
「空は広い」
「だから鳥は、おまえより長生きする」
三本目で意識が途切れた。
牢の床には、外套から落ちた翡翠羽が一枚だけ貼りついていた。イツカは潰れていない左手でそれを拾った。百二十羽を揃えるため、仲間二人が崖から落ちた。密書になったのは一本だけだが、一本を怪しまれぬために残りの命が要った。戦では、飾りの方が本体より高くつく。
王宮の工房では、コヤルが封箱から羽を出した。欠けを削り直すふりで軸を裏返し、文字を読んだ。煤文字を爪で消し、羽を火へ入れる。
月が槍塔の穂先へ触れた。
牢の高窓から、イツカは南壁の兵が階段を降りるのを見た。代わって、太陽神の緑旗が一本上がった。